Collaboration Energizer | #混ぜなきゃ危険 | 八木橋パチ

コラボレーション・エナジャイザーとは、コラボレーションの場を作り、場のエネルギーを高め、何かが生みだされることを支援する人

ビジネス変革のすすめかた | 先進テクノロジーが実現すべきビジネス(その2)

前回は、社会課題と向きあわざるを得ない(向き合おうとしなければ退場を迫られる)現在の企業や組織を取り巻く環境を、COVID-19から市場原理主義SDGsからDX、共有価値創造といった多くのキーワードを用いながら説明した。

それでは具体的に、気候危機やSDGsに代表される社会課題の解決に、ビジネスをどうつなげればいいのか、そしてどうそれを拡大していけば良いのかを考察していこう。

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既存ビジネスをそのままSDGsの17の目標にマッピングし、「社会に貢献するビジネスを行なっています」と統合レポートなどを通じて伝えたところで、これまでと同じことをしているだけなら課題が解決するわけははない。酷くなる流れを食い止めることにも、問題の進行スピードを遅くすることにも役立たないだろう。なぜなら、そのビジネス自体が問題発生に加担しているのだから。

前回、上のように書いた。

既存ビジネスをそのまま続けているだけというのは、課題を生み出す側、あるいは放置する側にいるということだ。市民からレッドカードを提示される日もそう遠くないだろう。

それでは、どのようにビジネスを変えていけば良いのだろうか。

方法は2つある。1つ目は既存ビジネスは進めつつも縮小していき、課題解決のための別ビジネスを推進するやり方。2つ目は既存ビジネスの在り方を変化させていくやり方だ。

どちらのやり方を取るにせよ、掴んでおくべき流れがいくつかある。順番に見ていこう。


グリーンニューディール | 既存ビジネスの縮小と新ビジネスの推進

グリーンニューディールという言葉を耳にする機会が増えてきた。捉え方や説明にいくらかのバラツキがあるものの、その中核は、環境保護とデジタル技術の活用を軸に据えた21世紀版の「ニューディール政策」(1930年代のアメリカで実施された、公共事業やインフラ整備への投資を中心とした政府の市場経済への積極的な関与)を意味する。

数年前からEU圏を中心に進んでいたグリーンニューディールだが、ここ1-2年でヨーロッパだけではなく韓国、そして(呼び名こそ違えど)中国での取り組みも本格化している(アメリカは、11月の選挙後の民主党の動きに注目だ)。

そして今、新型コロナウイルスに席巻された社会・経済動向を受けて、クリーンな自然環境を取り戻すためのビジネス施策や取り組みに対し、とりわけ手厚く支援を進めようという、「グリーンリカバリー」と呼ばれる動きも活発になっている。

限られた資金や公共投資額を最大限に活かすために、前述のグリーンニューディールにグリーンリカバリーを組み込み、冷え切った世界経済を復興していこうという動きが世界中で広がりを見せている。

分かりやすい具体的な動きとしては、フランス政府がエールフランスに対し、いくつかの短距離フライトの廃止を救済資金援助に条件付けたことが知られている。これはCO2排出割合の高い航空機を鉄道に代替することを求めたものだ。

今後、人びとの関心は再び「地球環境への負荷をいかに抑えるか」ということに向かっていくだろう。

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今後も続く目に見える形の自然災害の大規模化と頻発化により、市民の意識変化をさらに加速していくだろう。そして市民の環境知性の向上と共に、グリーンビジネスへの転換、そのためのテクノロジー活用に対する要求は、行政にも企業にもより大きな声として聞こえてくるだろう。

とりわけ、ミレニアル世代とそれ以降の世代のSDGsやESGの認知率は年々高まっているが、驚かされるのはその知識ではなく、活動に対する強い共感と実行力だ。

具体的には、温暖化対策を行わない企業への投資抑制/引き上げを進める「ESG投資」の一層の拡がりや、環境負荷を抑える事業活動の実践を宣言する「RE100プロジェクト」への加入推奨などだ。


第三次産業革命 | 既存ビジネスの縮小と新ビジネスの推進

産業革命の捉え方や区切り方にはいろいろな考え方があり、現在を第四次、あるいは第五次の革命の只中だと捉える人たちもいる。

だがここでは、経済や産業を支えるエンジンそのものである「動力基盤」に着目し、蒸気機関を第一次、化石燃料を第二次、そして再生可能な自然エネルギー(太陽、風力、水力、地熱など)への変換を第三次産業革命として話を進める。「脱炭素化」とも呼ばれているものだ。

そしてこの第三次産業革命は、動力基盤としての化石燃料の代表「石油」からの脱却を意味するだけではなく、さまざまな製品の原料(化学繊維、農薬、プラスチック、食品添加物、塗料、建築材、ゴム、防腐剤…etc.)としての石油への依存度合いをも大いに低めるものでもある。

なお、先ほどエールフランスの短距離ルート廃止の話を挙げたが、今後コロナ禍が落ち着き、ある程度海外との行き来が増えると、我われは再び「飛び恥」という言葉を思い出すことになるだろう(個人的には、水素を燃料として二酸化炭素を排出しないというエアバス社の航空機開発に大いに期待している)。

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アメリカの経済社会学者ジェレミー・リフキンによれば、第三次産業革命のインパクトは、動力基盤と原料としての石油からの脱却だけにとどまらない。

現在、さまざまな領域で新たなビジネスを生み出しているIoT(Internet of Things)と、複数地域の再生可能エネルギーのマイクログリッド(分散型電源と送電網)がネットワーク化された「エネルギーインターネット」が、

複数地域の再生可能エネルギーのマイクログリッド(分散型電源と送電網)がネットワーク化された「エネルギーインターネット」となり、それが現在、さまざまな領域で新たなビジネスを生み出しているIoT(Internet of Things)とつながるというのだ。さらに、倉庫や物流システムの統合と自動運転などを組みあわせた「フィジカルインターネット(物流インターネット)」とも結びつくという。

こうして、IoTはInternet of Everythingとなり、「コミュニケーション」「エネルギー」「物流」コストが限りなくゼロに近づく「限界費用ゼロ社会」に到達するという。

限界費用ゼロ社会においては、ビジネスの在り方は激しく変化する。「規模の経済」の強みを最大限に活かした中央集権的で垂直統合型のビジネスモデル -- いわば「金融資本にものを言わせて自己利益を追求するビジネスモデル」が幅を利かせる分野は減少していくだろう。なぜなら、エネルギー、物流、コミュニケーションのコストがゼロに近いところでは、「大資本」は強みにはならないからだ。

そしてジェレミー・リフキンは、従来に変わる新産業モデルの中心となるのは、「共有資源を活かして共益あるいは公益を追求するネットワーク型組織モデル」だと予言する。

そこでは、20世紀後半から離れていく一方だった「利益追及型の機能体組織であるゲゼルシャフト中心社会」と、「人のつながりを第一とする共同体組織であるゲマインシャフト中心社会」が近づいていき共存する社会へと向かうであろう。

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ゲマインシャフトゲゼルシャフトは19世紀にドイツの社会学者テンニースが提唱した社会を表す対立概念。図は少々乱暴ではあるが、筆者がわかりやすく対比させたもの。)


格差拡大から調和に近づく共有型競争へ | 既存ビジネスの在り方の変化

第三次産業革命がどの程度実現するかは未知数だ。だが、前述のグリーンニューディールはその方向性に沿って進んでいると言えるだろう。
そして何よりも、悪化を続ける気候変動と経済的不平等への危機感は世界中で日増しに強くなり続けている。少なくとも、従来通りのビジネス環境と社会環境が今後も続くと考えているビジネスパーソンは、(ポジショントーク的な公的発言を除けば)もはやかなり少数だろう。

そしてこの流れを後押ししている中心層が、これからの時代の中核を担うミレニアルとそれに続くZ世代だ。

日本では逆ピラミッド型の人口構造によりその動きが一見目につきづらいが、すでに世界ではミレニアル世代の発信をいかに取り入れていくかが政治の動きの中心となりつつあり、経済もそれを追っている。

そして彼らの思考の根幹にあり、意思表明や行動の中心にあるのが気候危機と経済的不平等拡大の問題であり、そうした社会課題への取り組みだ。

格差と気候という2つの問題が深刻化していった時期が、1981年以降に生まれたミレニアル世代たちが多感な時期を過ごした20世紀の終わり頃と同期しているのは偶然ではない。

なぜなら、1990年代の後半にグローバリゼーションを経済・政治面から強力に後押しするWTO世界貿易機関)が創設されて世界的な自由貿易が本格化した時期と、世界の超富裕層がその資産を大幅に増やすのと同時に各国で貧困層が増え「極端な経済的不平等」が可視化されていったのも同じ時期なのだ。

なお、世界の二酸化炭素排出量も、自由貿易体制の広がりとほぼ同期して加速している。

彼らは、社会が変化していく様を、訴えるすべを持たぬまま観てきた。そして今、その後始末を一方的に押し付けられることにNoと声を挙げているのだ。

ミレニアル世代やZ世代は、その多くが自分たちの世代に大量の負の遺産を残し続けている根本原因が、現在の利益追及型のゲゼルシャフトが幅を利かせすぎているせいであることを知っている。そしてこのままでは、格差社会地球温暖化の拡がりをストップする変化を起こせないことを理解している。

若い世代ほど消費・行動様式が購入や所有ではなく、サブスクリプションや共有へと向かうのは必然だ。この流れの先には、「勝者総取り」の強欲的資本主義から、共有型を織り込んだ共益/公益追求型資本主義への変化があるのではないだろうか。


地球環境と人類の未来から歓迎されるビジネスへ

既存ビジネスの中で残すべきものも、新たにスタートするビジネスも、環境的にも倫理的にもクリーンなものが求められている。

それは現在地上に存在している人間だけではなく、「地球環境と未来の人類」という重要なステークホルダーからも歓迎されるビジネスでなければならない。

そうでなければ、文字通り、ビジネスの未来も人類の未来も暗いものになるから。


次回は、ゲゼルシャフトゲマインシャフトを近づけ共存させるためのアプローチと、それを考える上で重要な要素となるデジタルデータの占有と共有という視座から、未来のテクノロジーとビジネスを考える。

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八木橋パチ(やぎはしぱち)

日本アイ・ビー・エムにて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険>をキーワードに、人や組織をつなぎ混ぜ合わしている。
運用サイト: AI Applications Blog

某サイトに寄稿したものの、ボツになってしまいました…。そんなわけで、いつもとは違うトーンになっております。

Happy Collaboration!