大学生のみんなからの質問へのおれなりの答え。
先日の中央大学での授業で、熱心な学生のみなさんからたくさん質問をいただきました。
その場で答えをお伝えしたものの、後ろに予定が入っていて授業後は30分くらいしか時間が取れず、時間も言葉も足りず十分伝えきれなかったんじゃないか…と感じています。
そしてまた、関連した質問を別々に個別にいただいて、質問への答えをあの場のみんなにもシェアできたら、もっと立体的にお伝えできたような気もしています。
そんなわけで、記憶に残っているいただいた質問に、改めて答えを書いておきます。 言うまでもないけど、「みんなもそうすべきだ。そう考えるべきだ」なんてつもりで答えを書いているわけじゃないです。今のおれの価値観ではこう思っているし、これまでこうしてきましたよってだけの話です。 質問いただいた生徒さんに届きますように。
それにしてもめっちゃ長くなってしまったので、ページ内アンカーリンクを置くことにします。
また、一通り資料を使って話をして、ワークシートを使った「自分の仕事に対する価値観発見」ワークをやった後にいただいた質問なので、「何を言っているんだろう?」「どうしてこんな質問が? 答えが?」と思われる方は資料をさらさらっとみていただいた方が良いかもしれないと思うので、前回と同じものですが置いておきますね。
-- フリーターやってる間に不安は感じていなかったんですか?
-- 学校やめてクリエイターに専念しようかと思ってるんですが、アドバイスもらえますか?
-- 入学して2カ月、学部が合いません…ベンチャー企業でお手伝いしている方が楽しいし、そういう仕事に就くのに役立つと思えなくて…。
-- 現在からフリーター生活を振り返って後悔していることは?
-- 家の伝統を守るために、とある仕事に就かなきゃいけないんですが、ものすごく狭き門を突破する必要があり、自信がありません。ダメだったらどうすればいいのでしょうか?
-- わたしはヒッピー的な暮らしに惹かれ憧れてるんですが、パチさんも同じような感じなんじゃないですか?
-- 外資系の企業だから学歴なしで入れたんですか? 人事部に対してどんなアプローチをしたんですか?
-- どのタイミングでの、なにをきっかけに「お金」が働くことの目的じゃなくなったんですか?
-- 新しいことへのチャレンジにすぐに脚がすくんでしまうし、決断できないタイプなんです…
-- 復業をオープンにして面倒なことってないんですか? そもそも許可されてるんですか?
-- しあわせって求めるものなんですか? あるものなんじゃないですか?
上の埋め込まれたファイルがうまく表示されない方は、こちらのリンクをお試しください。
-- フリーターやってる間に不安は感じていなかったんですか?
もちろんありました。将来どうなるんだろう? これでいいのかな? って。
ときどき眠れないような日が続くことも…。でも、それはフリーターじゃなくても同じだったんじゃないかな? 将来とか未来って本質的に不確定要素に満ちているものだから、それは不安を募らせるものだしワクワクさせるものでもある。
要するにどう捉えるかは自分次第で、フリーターじゃなくて会社員になったって公務員になったってミュージシャンになったって変わらない。安定感がいくらか増すだろうけど、不安が消えるわけじゃない。
-- 学校やめてクリエイターに専念しようかと思ってるんですが、アドバイスもらえますか?
学校やめて専念する必要が本当にあるんだったらいいんじゃない? やめる必要が「けじめをつける」とか「退路を断つ」とか、自分や周りに「本気であることを示すため」だったら、別に学校をやめずにクリエイターやってればいいんじゃないかな。
おれも「ミュージシャンになるんだから高校なんて通う意味ない。やめよう」って思ってやめようとしたんだけど、母親に頭下げられて、やめることをやめた。今思えば、別にやめたところで毎日昼間からずっと練習したり、一年中ツアーに出たりするわけじゃないんだから、やめる理由がないよね。
それに、制約があるほうがいいものが作れるってことも少なくないよね。おれ自身、クリエイターとしてそれを感じることは少なくないな。
-- 入学して2カ月、学部が合いません…ベンチャー企業でお手伝いしている方が楽しいし、そういう仕事に就くのに役立つと思えなくて…。
まず「ベンチャー企業でお手伝いしている方が楽しい」っていうけど、お手伝いしている何を楽しんでいるかを掘り下げた方がいい気がします。例えば、「マーケティング支援」が楽しいのだとしても、コピーをウンウン唸りながら考えるのか楽しいのか、みんなで共同作業をして形を生み出していくのが楽しいのか、調べ物して知らない世界を見たり、報告書を作ってそれが人に「伝える」ための作業だから楽しいのか。
そうやって考えていくと、なにが楽しくて、何に自分が価値を見出しているのかが分かってくると思う。そしたら、今いる学部で学ぶことでそれに役立てられるものがないか、考えてみたら?
それでもやっぱり「ない」って感じて、他に魅力的なものがあれば、そっちに向かえばいいんじゃないかな。
うーん、多分またミュージシャンしていると思う、で、もっといっぱい練習していると思う。
「世に知ってもらう / 認めてもらう」ためのやり方はきっと今風に変えるだろうけど、ミュージシャン同士が音楽で伝え合うあの感覚は忘れられないし、自分と自分の好きな人たちのメッセージをもっと届けたいって気持ちは変わらないだろうから。
-- 現在からフリーター生活を振り返って後悔していることは?
後悔していることは人生にいろいろあるけど、「フリーター生活だから」って後悔はないかな。むしろ、その時期にいろんなバイトして、いろんな状況で「働く人」たちを見てきたことが今の自分につながってると思うので。
ただ、時間の使い方としては、もっと語学とスポーツにも力を入れてれば良かったかな。世界とコミュニケーションするための道具を磨いておけばよかったかな。
海外でバイト探すのって、ほんと難しいからね…。おれがようやく見つけたレストランのバイト、初めて2カ月で店が潰れちゃったし。
でも、どうにか暮らさなきゃいけないので、お金を持ってる留学生が多く住むアパートのゴミ捨て場から日本のファッション誌や洋服を拾って、ガレージセールで売ったりしてました。
ときどき「え! これ捨てちゃうの?!」みたいな新品の家具とか家電製品もあったりしたなぁ。
-- マーケティングの仕事ってなんですか?
難しいな。多岐に渡ります。最近だとソーシャルメディアでバズらせるみたいなマーケティングもあるし、どこに売れる領域があるか市場調査するようなのもあるし、キャンペーンプランを作ったり、コピーを書いたり、ストーリーテリングをしたり。
で、そういう「作業」で分けていっても、実際には一つ一つの作業の中にいろんな要素があって、そのどれが自分の仕事の価値観とあっているのかあっていないのかを知ることが重要だったりします。
マーケティングの中にも、クリエイティブが求められる部分とまったく求められない部分もあるってこと。だから「アイデア出しが好きな私にはマーケティングが向いているだろう」みたいな考えで仕事を選ぶと、まるっきりアイデアなんて求められていないマーケティングの仕事に行き着いちゃうこともあるよ。
-- 家の伝統を守るために、とある仕事に就かなきゃいけないんですが、ものすごく狭き門を突破する必要があり、自信がありません。ダメだったらどうすればいいのでしょうか?
まず本当に絶対「就かなきゃいけない」の? 自分としては就きたいの、就きたくないの? そこをよく考えようよ。で、自分が「就きたい」と思うんだったら「家の伝統を守るために」とかもう関係なくね? どっちでもよくね? 「就きたい仕事に就くには狭き門を突破しなきゃならない」-- じゃあどうしようか? って話だよね。
ダメだったらどうするかは、他のことをするしかないよね現実には。そのときに、自分が欲しいものの延長線上で考えよう。例えばプロの俳優とかミュージシャンになれなかった人はいっぱいいるよね。じゃあなんでそれになりたかったのか? 抽象度を上げて考えれば「人に言葉を伝えて感情を湧き立てることが好き」なのかもしれない。それだったら、それを味わえる仕事はなんだろうかって考えていけばいいんじゃないかな。
-- わたしはヒッピー的な暮らしに惹かれ憧れてるんですが、パチさんも同じような感じなんじゃないですか?
よく分かったね! 実はおれ「アーバンヒッピー」を自称しているんです。今年の3月には続けざまにヒッピー発祥の地であるサンフランシスコのヘイト&アシュベリーと、デンマークに今も残るヒッピーの街クリスチャニアに続けて行ったりもしてきたところです。
でも、ヒッピーをどう捉えているかにもよるし、おれにとってはヒッピーであることは自由をつねに尊重し続けるってことなんだけど、それを続けるのは楽なことじゃないって知っていた方がいいと思う。ヒッピーってある意味極端なライフスタイルだからさ。いろんなものを諦めたり捨てたりしなきゃいけない場面っていうのもきっと出てくるよ。
それから最近だとデンマークでは「エコビレッジ」が増えてきていて、おそらく日本でも今後本格化してくると思うから、ちょっと注意を払っているといいかもね。
-- 外資系の企業だから学歴なしで入れたんですか? 人事部に対してどんなアプローチをしたんですか?
たしかに「外資系だから」かもしれないけど、はっきりは分からないです。事業部門のマネージャーが採用権を持っていて、人事部門より強いかどうかがポイントなのかも。少なくともおれの場合はそうだったのかもね。直接「あんたみたいなのがあたしのチームには必要なのよ」って言ってくれて、それで採用プロセスがスタートしたから。
人事部に対してアプローチというのはおれは一切したことないです。もしかしたらIBMもその前のネットイヤーグループも、おれを誘ってくれた人が人事部に対してなんらかのアプローチをしてくれていたのかもしれないですね。
-- どのタイミングでの、なにをきっかけに「お金」が働くことの目的じゃなくなったんですか?
やっぱり生活が困窮していたころはお金が目的だったよね。衣(医)食住に必要なお金がギリギリだった間は。でもだんだん必要なものが減ってきて。ベースギターなんて3本も4本も必要ない、あってもいいけど必要じゃない。iPhoneだって新しいものの方がかっこいいかもしれないけど、自分にとって必要な機能は7くらいで十分だし。
そうやって見つめなおしていくと、案外お金って別にいっぱい要らないなって気づいた。ある程度の満足感を得られるだけの生活費が稼げれば、そこから先は興味のないことを2時間やって1万円もらうより、無給で2時間仲間と楽しい時間を持つ方が自分にとっては幸福だし価値を感じる。
それに「お金がたくさんもらえること・ところを求める」ことを中心に置いて活動する自分を、自分はこの後も好きでいられるのかって考えたら、無理だったんだよね。自分にとって一番身近で大切な自分を自分が嫌いになってしまったら…って考えたら、それはすべきじゃないなって思わない?
-- 新しいことへのチャレンジにすぐに脚がすくんでしまうし、決断できないタイプなんです…
こう見えて、実はおれにもそういうところ結構あります! なので自分に決めているルールがあります。
それは「やったことないことに誘われたら断らない」ルールです。
もちろん、どうしても魅力を感じないこととか金銭的な負担が大きすぎるとかで断ることだってありますよ。でも、基本的にはおれを誘ってくれたってことは、たぶんおれに合うとか良いとか思ったから誘ってくれているんだろうし、それに自分からなかなか「チャレンジしよう!」って動き出せないおれにはぴったりのルールだから。 就職も転職も、その前のワーホリもそば屋も、考えてみたら全部自分から決めたことは一個もなくて、全部誘われてやってみたことばっかり。だから、やっぱりおれには合ってるんだと思う。
すばやいかな? 自分ではあんまりそう思っていないんだけど。
でも、これも自分に決めていることがあって。それは「いつもできるだけ身軽でいること」。
おれは妻と賃貸マンションで二人暮らしをしているんだけど、子どもも家も持ちたくなくて。なぜなら自分の性格的に、子どもにべったりになってしまいそうだし、家を持ったら引っ越しとか億劫で、その街から出ることを考えなくなってしまいそうだから。
だからモノもあまり所有したくないし、時間や場所を束縛されるような仕事にもあまり近づきたくない。
もしかしたら「来週からデンマークで一緒に働こう」って誰かに誘われるかもしれない。そういうときにその場で「YES!」って即決してすぐに動ける状態でいたい。
-- 復業をオープンにして面倒なことってないんですか? そもそも許可されてるんですか?
許可はされてます、申請して承認はもらっています。ただ、いちいち「こんどのはこれです。こんどのは…」と毎回やってるわけじゃないので、厳密に言えばビミョーなのかも。
重要なのは、会社に大きなダメージを与えかねないようなことが何かを自分の頭で考えること。おれはIBMという会社や自分の上司や仲間をリスペクトしているので、会社や彼らからリスペクトされるように行動して、お互いがお互いを信頼しあえる関係性を大事にしている(つもり)。
オープンにして面倒なことは…ゼロではないかな。でも、あえて積極的にオープンにしている。それは複業って本来人にとって普通のことだと思うし、隠さなきゃいけないような後ろめたいことはしていないし、「隠しておいた方がやっかまれたり非難されたりしないから良い」という考え方が多数派となっている世の中を変えたいから。
一生働いていたいよ。
おれは収入の有無を「働く」と紐づけていないから、誰かに価値を渡すために行動することが働くことだと思っているので、ずっと働いて喜んでもらいたい。いつかすごいベーシックインカム制度ができてお金のためになんかまったく働かなくてよくなっても、きっと働いていると思う。
-- しあわせって求めるものなんですか? あるものなんじゃないですか?
多分その通りであるものだと思う。でも、求めることでもっと「ある」ことに気づけて、そうやって気づいて「大切だな」とか「嬉しいな」って感じたり味わったりすることで、もっと大きなものにできるんだと思うんだよね。
そしてその大切なしあわせを記憶のバッグにたくさん持っている方が、ものすごく大きなショックや悲しみとか、深い落ち込みとかから、自分を引っ張り上げやすくなるんじゃないかと思ってる。
それに日々の暮らしの中でも小さなしあわせをちょこちょこ味わうことで、周りの人にもそれを分けてあげたくなるんじゃないかな。しあわせって分けても手元のものが小さくならなくて、むしろどんどん増えて大きくなるものだからさ。
中央大学のみなさん、おれの価値観にお付き合いいただきありがとうございました。
また追加で質問があったらご遠慮なく!
Happy Collaboration!