Collaboration Energizer | #混ぜなきゃ危険 | 八木橋パチ

コラボレーション・エナジャイザーとは、コラボレーションの場を作り、場のエネルギーを高め、何かが生みだされることを支援する人

facebookショートショート

「いや、それにしてもAさんとお知り合いだとは。今度紹介してくださいよ。後で改めて連絡させてもらいますね。」
白山さんはそう言って五反田駅で降りていった。
 
電車に残された僕は、改めて白山さんのことを考えていた。
ついさっきまで一緒に話していたのは、新しいiPhoneのことや娘さんの中学入学のこと。
元々白山さんについて僕が知っていることといえば、外車のセールスをやっていて、坂本龍馬とソーシャルウェブが好きで、パクチーと、それから鳥肉の皮が嫌い。
たしか、Facebookにこのあいだそんなことを書いていた。いや、あれは違う人だったろうか。
そう。僕が知っている白山さんのことといったらその程度だ。
イメージ
  
そもそも、どうやって知り合ったんだったろう。
たしか、ソーシャル系のイベントで何度か一緒になって、ちょっとした挨拶をされたのがきっかけだったろうか。
そうだ。たしかその場でFacebookの友だち申請をもらい、それから何度か「いいね!」したりされたりしている。
  
そんな白山さんとばったり車内で出くわした。五反田まで行く途中だという。
電車が高輪台駅を出た辺りで、話はAさんのこととなった。Aさんはソーシャル界隈ではちょっと名の知れたブロガーで、僕は結構古い付き合いだ。
どうやら白山さんも、Aさんをフォローしているようだった。
先日、Aさんのあるツイートがちょっとした波紋を呼んでいた。そして昨日、それに対する自分のスタンスをブログに書いており話題になっていた。
 
「でもあれですね、Aさんってちょっと幼稚というか、はたから見てるとアホくさいことにムキになるところありますよね」白山さんが言った。
「そうかもしれませんね、でも彼、無計算でやってるわけじゃないですよ。この間もちょっと会って話したんですけど、最初からxxx…」僕は白山さんにやんわりと反論していた。
無自覚だったけど、今思えば、僕は白山さんのAさんに対する批判にちょっとムカついていたんだろう。たぶん、世間一般でも同じことが言われていることにうんざりしていたんだと思う。
そして僕はAさんのちょっとしたエピソードを披露していた。Aさんと仲が良いことに驚く白山さんの様子に、ついつい自慢したくなってしまったんだと思う。
 

---
 
翌朝、Facebookに長めのメッセージが届いていた。
かいつまんで言えば、白山さんの会社のイベントをAさんに紹介したい、そしてできれば同時に車の購入も勧めたいと思っているので、間を取り持って欲しいということだった。
そして、白山さんがAさんにコンタクトする前に、僕からAさんにその旨伝えておいて欲しいというお願いが丁寧に書かれていた。
 
イメージ
 
これまでにも人の紹介をお願いされたことはある。たいていの場合、2つ返事で了承してきた僕だが、今回は5分、10分と考えこんでしまった。
 
「あの人とあの人はきっと相性がいいだろう」--誰の頭にも、そんなイメージしやすい組み合わせというのはあると思う。でも僕には、白山さんとAさんが、そんな風につながらなかった。無論「良い関係にならない」なんて決め付けているわけはない。僕にそんなことわかるはずもない。
 
でも、僕は、依頼してきた白山さんのことをほとんど知らない。
Aさんの気分を害するようなことを、白山さんはしないだろうか。電車の中でもちょっと悪く言ってたじゃないか…。
Aさんにはもたらされるものが想像できなかった。白山さんがAさんから受けるメリットは明確だ。でも、Aさんはそこから何を得られるのだろう…。
時間だ。もう支度して会社に向かわないと。
  
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
白山さんへ:
Aさんの紹介の件、つい先ほど以下の内容でAさんにメッセージを送りました。
 
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
Aさんへ:
 
こんにちは。
車のセールスをしている白山さんという僕の友人から、「自分の仕事がらみでAさんを是非紹介してほしい。ついてはAさんに白山というものから連絡が行くと伝えておいて欲しい」と連絡をもらいました。
僕は、こうしたソーシャルなつながりをビジネスに使用することに対して、ニュートラルなスタンスを取っています、いや、取りたいと思っています。
少なくとも、それが礼を欠くやり方でなく、人を不快にすることがなければOKだと。
 
そんなわけで、Aさんへ連絡が行くと思います。
 
(言わずもがなではありますが)僕の友人だからといって特別扱いしていただく必要はまったくありません。どうぞAさんが話を聞く価値がありそうだ、良さそうだ、と思えたら聞いてあげてください。
Aさん自身でご判断いただき、自由に対応してください。
 
なにかAさんにもメリットがある話しになれば良いのですが。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
 
白山さんが事前に僕に連絡してくれて、その上でAさんへコンタクトを取ろうとされたことは、僕にとってはとても意味のあることです。
だって、そんなことしなくてもAさんの連絡先はFacebook上ですぐ分かるし、僕に連絡しなくても「僕の友人」だと言って連絡することは簡単なことだから。
 
ここから先は白山さん次第です。何をどのようにAさんにお伝えするのかも白山さんの自由です。もちろん、話の種として僕のことをどんな風に話してもらっても構いません。
 
そうそう。Aさんと昔、車の話をしたことがあります。
3年くらい前、まだAさんが今ほど知られていなかった頃、見た目に惹かれて10年落ちのスポーツカーに乗っていたそうです。
でもある時、大事なデートの途中にエンストしてうんともすんとも言わなくなり、当時の彼女にフラれたことがあるとか…。
それ以来、車には堅実性を求めるなんて言ってたな。
 
白山さんとAさんのつながりが、何か楽しいことや良いことにつながりますように。
うまくいったら、僕にも一杯ご馳走してくださいね。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
 
---
 
イメージ
 
昼休み、僕は2人にメッセージを送った。
でも正直、僕はまだ分からないでいる。
 
白山さんではなく、もっとよく分からない「友だち」からの依頼だったらどうしただろう? 紹介先がよく知らない相手への依頼だったら?
 
僕に何も言わずに白山さんがAさんに連絡して、後からその話を聞いたら僕はどう思うのだろう? そこで不快な経験をAさんがしたと聞いたら?
 
逆に僕が「紹介された」とコンタクトされたらどうするだろう? 紹介された相手ごとに違った対応や異なる姿勢を僕は取るんだろうか。
 
薄いつながりも可視化されるようになった今、知り合いであること自体の持つ意味ってなんだろう。大事なのは何を一緒にやっている/やったという関係の中身じゃないだろうか。
 
僕は考え続ける。たぶん、ずっと。
 

 

  
この物語はフィクションであり、すべての人物はPachiの頭の中にしか存在しません。
Happy Collaboration!