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社会とあなたをつなぐもの | ソーシャルビジネスのリアルとUMITO Partners 村上代表

ボランティアとして関わらせていただいている社会福祉法人さぽうと21さんに機会をいただき、先日20名ほどの大学生と大学院生、そして数名の新社会人たちと「ソーシャルビジネス」について一緒に考えるセッションを行いました。

support21.or.jp

 

お題をソーシャルビジネスとしたのは、彼らからのリクエストがあったから。

基礎的な情報から、どんなスタンスやアプローチが考えられるのかまで、スペシャルゲストと共に90分間(そしてその後のランチタイムも)「ソーシャルビジネスの根幹に何があるのか」を探ってみました。

この記事では、セッションの中から多くの人にとって有益であろうという情報と、おれ自身にとってのハイライトを、メモとして書いておきます。

 

ソーシャルビジネスの歴史と定義

ソーシャルビジネスには、世界共通の定義がありません。
ですから、あなたが思っているソーシャルビジネスは、あなたがそうだと思っているだけに過ぎないかもしれません。多くの人が活用しているWikipediaに書かれている定義も、ソーシャルビジネスの世界的権威であるムハマド・ユヌス博士が考える「一つの定義」に過ぎません。

ただ、それではなかなか話が進まないので、分かりやすく、かつ網羅的に説明していると思う2つの記事を紹介します(今回のセッションでも活用させていただきました)。

というわけで、ソーシャルビジネスには決まった定義はないものの、「社会性と経済性の両者を、持続可能な方法で追求する事業およびビジネス手法」という広義の捉え方が、少なくとも今の日本には一番しっくりくるのではないでしょうか。

 

ソーシャルビジネスの見極め方とB Corp

「グリーンウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」という言葉を聞いたことがありますか?

簡単に説明すると、実際にやってもいないことをさもやっているかのように振る舞ったり、宣伝したりすることで、「あの会社、口ばっかりじゃん!」と信頼できない会社を糾弾する言葉です。

先ほど書いたように、ソーシャルビジネスには決まった定義はなく大変幅広いものです。とはいえ、自らをソーシャルビジネスと名乗る会社の中には「いくらなんでも盛り過ぎでしょ!」と言いたくなるような企業も存在しています。

 

たとえば、日本の厚労省経産省などの省庁が「お墨付き」を与えている企業認証制度や、国際機関がGHG(温室効果ガス)排出量の適正なコントロールを認めるISOや、公正な取引の実施を可視化するフェアトレードラベルなど、「自称ソーシャルビジネス」に役立つ認証制度は山のように存在しています。

でも、そこにラインアップされている企業が、本当に社会課題解決の背中を押しているのか。

「ソーシャルビジネスとの付き合い方」を考える上で特に難しいのは、特定の社会課題を解決しようとしていたり、特定の社会的規範を率先して推進してはいても、別の分野では社会にむしろマイナスのインパクトを与えてしまっている企業も存在しているということです。

それが意識的ではなくても「xxxxの解決にはxxxxxxが犠牲になっても仕方がない」というアプローチ自体を真剣に見つめ直さなくては、社会課題の種類や発生場所が変わるだけ…ということになりかねません。

 

そこで、個人的に強く推しているのが「B Corp(Bコーポレーション)」です。

ポイントは、「一点突破」ではなく、包括的に社会全体に公益をもたらす企業が認証される制度であるという点。以下は、B Corp認証取得支援コンサルタントの岡さんが、『B Corp認証のこれまでとこれから』というイベントで、その特徴を簡単に紹介したものです。

B Corpはアルファベットの「B」が目印の、世界90を超える国で約7,000社が加盟しているアメリカ発の国際的な民間認証制度です。
「消費者にも株主にも、取引先にも従業員にも地域コミュニティにも、社会で暮らす全員にとってよい会社」を認証するのがB Corpであり、「B」は社会全体に利する「公益」を意味し、それを重視して社会価値を発揮していることを証明した企業にのみ認証が与えられています。

ソーシャルビジネスとの付き合い方と「ソーシャルデザイン」

今回のセッションは大学生や院生と一緒にソーシャルビジネスを考えるものでしたが、おれが学生の皆さんに一番言いたかったのは「一足飛びに『ビジネス』で考える必要はない」ということでした。

先ほどソーシャルビジネスは「社会性と経済性の両者を持続可能な方法で追求する事業およびビジネス手法」と書きました。

でも、極端なことを言えば、一生何をしても使いきれないくらいの経済力を持っている人は「経済性」を気にする必要はありません。そしてできる時にだけやればいいと思っている人には「持続可能性」は気にしなくてよいものです。

つまり、学校を卒業して「ビジネス」が自分の生活に入ってくるからと言って、ビジネスを通じて社会性を追求する必要はないということ。「ビジネスは暮らしの中の一部」なのですから、周囲の人たちの日常生活を良いものとする「ソーシャルデザイン」の方法は、それこそ星の数ほどあります。

 

まずはソーシャルビジネスを考える前に、ソーシャルデザインを考えましょう。そして実践しましょう。その中で、ソーシャルビジネスとの自分なりの付き合い方が見えてくるはずです。

企業に所属しながらボランティアをやるもよし、プロボノとして活動するもよし、ソーシャルビジネス実践企業で働くもよし、ソーシャルビジネスを立ち上げるもよし。

自分が置かれた状況に合わせて、「今できることとしたいこと」のバランスを取りましょう。

 

スペシャルゲスト | UMITO Partners 村上代

スペシャルゲストとして登壇してくれたのは、今年4月に国内23社目の企業としてB Corp認証を取得した、株式会社UMITO Partnersの村上春二代表です。

村上さんは、「水産資源データと評価」「IUU(違法・無報告・無規制)漁業」「漁業就業者数の激減」などのキーテーマを用いて、日本の海産資源と漁師さんたちの現状を分かりやすく説明してくれました。

そして「おいしい漁業が、続く社会を。」というUMITO Partnersのコンセプトの実現に向けて、構造、行動、意識の3つにアプローチする取り組みについて、学生たちとのQAを交えながら解説してくれました。

当日はここでしか聞けない話なども多数ありましたが、UMITO Partnersと村上さんについては下記の記事が参考になると思うので、ぜひご一読ください。

村上さん、本当にありがとうございました!

 

ソーシャルビジネスに興味をお持ちの方へ

参加者からの質問への村上さんの答えの中で、おれが特に重要だと思ったものを1つ紹介します。それは「評価にしっかりと線引きを」というものです。

どんなに良いことをしていようと、どんなに社会的価値の高いことをしていようと、「そんなの意味あるのか」だったり、もっとキツい言葉を使って全否定されることもある。まるで存在そのものを否定するかのように無視されるということだって、社会では残念ながら珍しくないんです。

あなたが、他者からの評価にすべてを預けてしまっていたら、そのとき自らの行動の価値を見失ってしまうでしょう。きっと、モチベーションを保てなくなってしまうことでしょう。

だから、否定的な意見やコメントに対して、「そう思う人も世の中にはいるものだ」と、一定の距離を置く強さを身につけましょう。

 

最後に、おれもこの話に関連することを1つ書いておきます。

イノベーション・マネージメントや未来デザインの分野で、「ニッチ」「レジーム」「ランドスケープ」という3層の重層的視座(MLP)の話がよく出てきます。簡単に説明します。

  • ニッチは新しい取り組み。小さなスタートから誰かが続けている何かです。
  • ジーは仕組み。何かが有利になったり必然になったり、またはそれと逆のことが起きるルールや構造。
  • ランドスケープは枠組み。社会常識や世論を生みだす前提条件や社会背景の変化を指します。

 

イノベーションが起きるにはこの3つの階層とそれぞれの関係が重要で、ニッチだけをやり続けていても変化は起きず、レジームへの働きかけやランドスケープの変容に合わせる必要があるといわれています。

おそらく、それはその通りなのでしょう。でもおれ個人のスタンスとしては、ランドスケープの変容を感じ取ることができなくても、レジームが振り向くそぶりを一向に見せなくても、周囲の誰にも評価されなくても、「それでもこのニッチ自体が価値あることに違いはない」と、続けるべきニッチを見つけて実践する人こそが、もっとも強い人だと思うのです。

そしてそんなふうに結果に捉われ過ぎず、信じるニッチを続けてくれる人が世界にいてくれるからこそ、ランドスケープが変わり、レジームが対応しようとしたとき、イノベーションが起こり次の時代が始まるのではないでしょうか。

おれは、周囲の評価に振り回されず、自身の取り組むニッチの価値を信じて行動を続ける人や組織に惚れるし、応援し続けます。

 

Happy Collaboration!