「仕事とは、自分や家族が生活するための金を得るものである。」
「仕事とは、自分の能力や興味、生き様を表現するものである。」
——仕事をしている人もしていない人も、おそらくは上の2つの文章のどちらにも「一定の真実がある」と思われるのではないでしょうか。
こうした、「自分は何のために仕事をするのか」という仕事に対する価値観(職業価値: work value)を、ドナルド・E・スーパーさんという著名な研究者が14の労働価値にまとめています。
少々長いリストですが、1つずつ見てみましょう。
自律性 |
命令や束縛を受けず、自分のチカラだけでやっていけること |
ライフスタイル |
自分の望むような生活を送れること |
環境 |
仕事や活動環境が心地よいこと |
能力の活用 |
自分のスキルや知識を発揮できること |
社会的評価 |
社会に広く成果を認めてもらえること |
愛他性 |
人の役に立てること |
達成 |
良い結果が生まれたという実感を得られること |
創造性 |
新しいものや考えを創りだしたり、デザインできること |
美的追求 |
美しいものを見出し、または創り出すことができること |
経済的報酬 |
たくさんの金銭・物質を稼ぎ、高水準の生活を送れること |
冒険性 |
わくわくするような、あるいはスリリングな体験ができること |
多様性 |
多様な活動ができること |
社会的交流性 |
いろいろな人と接点を持ちながら仕事ができること |
身体的活動 |
身体を動かす機会を持てること |
ピンとくるもの、こないもの、あったんじゃないでしょうか。でも「この中から重要なものを1つだけ選べ」と言われたら、きっと、かなり迷うのでは?
というか、1つだけ選ぶなんて無理ですよね。
おれは以前、大学や会社で何度かこの14個を「総当たり戦」にして、勝ち星が多い順に並べ、周囲の人と見せ合い、対話をするワークショップをやったことがあります。
皆さんもぜひ、この総当たり戦を行ない、自分にとって重要な順番に労働価値を並べてみてください。(ちなみに、総当たり戦の試合数の計算式は「N(N-1)÷2」です。14の場合は14×13÷2で91試合ですね)。
なお、この順位には正解があるわけでも、優劣があるわけではありません。さあ、紙とペンを用意して。早速やってください。
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自 |
ラ |
環 |
能 |
評 |
愛 |
達 |
創 |
美 |
経 |
冒 |
多 |
交 |
身 |
自 |
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評 |
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達 |
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…………
終わりましたか? じゃあ、おれの順番と比べてみましょうよ。
最初に表示した「自律性」から始まる順番が、おれの総当たり戦の結果順、仕事の価値観順位です。あなたの順番と似ていますか? それとも全然違います?
これまでも年に一度くらいのペースで自分の職業価値の変化をチェックしていたのですが、今年は順位の変動が久しぶりに大きかったです(こちらの『もっと働きやすい会社を選びたいなら | 八木橋パチの #混ぜなきゃ危険』で昨年の結果をご覧いただけます)。
2つ以上順位を上げたものがこちら:
・ ライフスタイル: 自分の望むような生活を送れること
・ 経済的報酬 : たくさんの金銭・物質を稼ぎ、高水準の生活を送れること
2つ以上順位を下げたものがこちら:
・ 愛他性: 人の役に立てること
・ 社会的交流性: いろいろな人と接点を持ちながら仕事ができること
こうして変動したものを見ると、自分でも「エディンバラ暮らしの間に受けた精神的な影響が大きく作用しているからだろう」と思います。とりわけ順位を上げた次の2つには、こうした理由があるのでしょうね。
ライフスタイル: 自分の望むような生活を送れること
——20数年ぶりの海外生活を通じて、自分が「自分らしくいられるライフスタイル」に強いこだわりを持っていることを再発見しました。
経済的報酬: たくさんの金銭・物質を稼ぎ、高水準の生活を送れること
——エディンバラ生活の間、仕事上で価値を発揮できないことに対して感じた不安の一つが「このままでは職を失うのではないか?」というものでした。以前よりも、経済的報酬や職業的安定の重要さを感じるようになったんだと思います。
なお、順位を下げた「愛他性」と「社会的交流性」も、その理由は見当がついています。どちらも、ボランティア活動などを通じてその価値観を満たすことができるので、「仕事を通じてじゃなくても構わない」という意識が高まったのがその理由でしょう。
「自分が大切にしている価値観はxxxxだ」と強く確信を持っている人も、逆に「そんな価値観だのこだわりだの、別にないよ」と思っている人も、実はそれって環境にとても強く左右されているんじゃないでしょうか。
そしてそれは決して悪いことではなく、人はそれだけ状況への順応性を持っているということであり、学びを通じて自らを変化させる力を持っているということじゃないでしょうか。