『グリーンカード 貴殿に、二年間の農作業への従事を命ず』を読みました
『グリーンカード 貴殿に、二年間の農作業への従事を命ず』という本を読みました。
「2年間農業をしなければならない」という国家命令を受けた大学生が、さまざまな人たちと関わって成長していく姿を描いた小説です。
今回、これを書く前に「インターネットではどんな書評が書かれているのかな?」と調べてみたところ、まったくと言っていいほど見つからなかったので、第1号になろうと思います!
まず、最初に書いておきたいことは、この本は若い人にはおもしろくないかもしれないということ。
おそらく「昭和」を自分ごととして捉えられる人、具体的には30代以上の人たちじゃないと、描かれている風景や空気感をイメージしにくいかも? という気がします。
ただそれは、逆に考えると、昭和の残像が頭に残っている人にとってはくっきりとイメージしやすいということです。
きっと、土と緑の畑の景観や、おばあちゃんの家や地方のスーパーマーケットでのシーンに、安堵感や郷愁を感じるんじゃないでしょうか。
そして、こうした昭和な雰囲気と、物語の中盤から登場するロボティクスやオートメーションを大胆に取り入れた農業の対比が、「変わっていくものと変わらないもの」や、世の中が幾重にも重なった仕組みの上に成り立っていることを浮かびあがらせ、改めて感じさせてくれます。
日本の農業というものが背負っているもの、そしてそこから生みだされるものって、食べものだけじゃないんだな。
2番目に書いておきたいのが、登場人物がみんなさわやか過ぎるのでひねくれ者には合わない可能性があるということ。
登場人物のほとんどが、みんな熱いハートを持った素直な好い人です。
けっこう熱いものの素直じゃないことが染み付いてしまっている俺は、いささか引っかかりを感じ、「おまいらさわやか過ぎ!」と3回ほど口にしました。
でも、熱いハート好きだったらきっと大丈夫!
これはちょっとだけネタバレですが、物語が本当に動き出すのは、第3章で広崎総理大臣が登場してからです。
そこまでは、自分の中に俯瞰的に眺めるような視点を感じながら『グリーンカード』を読んでいたのですが、広崎総理が現れてから、登場人物たちの思考や息づかいがグッと近くになってきました。
考えてみれば、そもそも、この本の創造のきっかけであろう「徴農制度があったら、この国はどうなるだろう」という荒唐無稽な問いが成り立つのも、もっと言えばこの本が成立するのも、この広崎総理と彼を支える白石秘書のおかげだと言えるんだろうと思うのです。
総理の骨太な人間性と(おそらく)剛力な決断力と突破力、そしてそれを支える秘書の献身力があれば、経済界を巻き込む新しいマーケットを産みだし、食料争奪戦争と環境問題を解決して「職業選択の自由」を曲げさせることができるのかも…?! と思い込ませてもらえるのですよ。アハハン。
最後に書いておきたいのが、この本の著者の水崎 美奈子さんが、ここ数年同じコミュニティーで一緒に活動してる俺の仲間の一人であるということ。
「仲間だからこそ甘くなりたくないぁ」という批評的な心持ちで読み始めたのが、1/3を過ぎたあたりからそんなことはすっかり忘れ、夢中になって読まされました。お見事。
ところで、最初に「30代以上じゃないとどうかな?」と書いたのですが、今、改めてパラパラと読み直してみると、やっぱり「意識高い系の学生さんたちにもおもしろく読まれるんじゃないか」という気がしてきました。
先ほどもちょっと書きましたが、私のように主人公とその同世代の仲間たちに対し「おまいら分別あり過ぎ上品過ぎ!」とならず、「僕たち私たちと変わらないな」と感じる人なら、きっと彼らと一緒に夢中になれるんじゃないでしょうか。
『わからないよ、そんなこと。ただ、一度決まってそれから逃げられないのだとしたら、ぐずぐずいつまでも文句言ってたってしょうがないだろ。その中で最善をつくすしかないだろ』 『でも仕方ないさ。俺たちにはどうしてやることもできない。人の人生代わってやることはできないし、人それぞれ与えられた人生の中で頑張るしかないだろう。せいぜいおいしいお土産でも買っていってやろう』
こんな、どこか絵に描いたような熱い言葉も、クライマックス間近になって現れる頃には素直に頷く俺がいました。
「著者とディスカッションしてみたい」って人がいたら、私に声かけてくださいね。