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『弱いつながり』を読みました - 欲望をつくる | チェルノブイリ

 

発売からちょうど半年ほど経った東 浩紀(あずま ひろき)さんの『弱いつながり 検索ワードを探す旅』を読みました。

ベストセラー本なので、直接手に取ったという人もきっと多いでしょう。そしてベストセラーのご多分に漏れず、私の見る限り読者の意見は賛否両論のようです。 イメージ

書評や感想もすでにたくさん世の中に出回っていますので、全体の書評を読みたい人にはそれっぽい検索ワードで探していただくとして、私は一カ所にこだわった偏った取り上げ方をしてみようかなと思います。

この本に収められた10篇弱のエッセイの中で、私が一番強いパワーというか、「覚悟」とでも呼びたくなるようなものを感じたのが、15ページにも満たないこの本の中で1番短いエッセイの『欲望をつくる | チェルノブイリ』でした。

今回のエントリーでは、その『欲望をつくる | チェルノブイリ』だけにフォーカスして、自分を惹きつける強い力について考えてみたいと思います。 きっと上手に言葉にすることはできないだろうけど、無責任に、思いつくままに書いてみます。

■情報の提示ではなく、感情の操作が必要

どんなに客観的な情報を並べても、だれも見てくれないのであれば意味がない。情報の提示だけでなく感情の操作も必要だ、というのがチェルノブイリ博物館の思想。

東さんは2013年、チェルノブイリ原発事故を展示する博物館に取材に行き、「事故の風化を食い止めることができるなら、きっかけはゲームでも映画でもかまわない、観光客の訪問も賛成だ」という、ウクライナ人たちの共通の主張に触れます。

そして、博物館のメインデザイナーの「展示には主観的な感情が入っているべき。感情抜きの客観的な展示だけでは、出来事の記憶は伝わらない」という意見に、強い示唆を受けたと書かれています。

「感情の操作」をカタカナにすると「エモーション・コントロール」となり、反射的に吐き気がするほどの強い嫌悪感を私は感じるのですが、でも同時に、ここでいう「操作」の意味は「意図する方向へ連れて行こうと操る」のではなく、「強く感情を揺さぶるようにデザインする」という操作のことだろうとも思うのです。

そして、その「操作」とは、何かを「そこにただ置くのか」、それとも「伝えようとしているのか」という違いに他ならないんじゃないでしょうか。それはつまり、自らの関わり方を決めるということそのものです。

■欲望させるための「観光地化」

普通の市民が関心をもち、アクセスするようになって、はじめて本当の情報公開なのではないか。これからの情報公開は、単に情報にアクセスできるようにするだけではなく、「アクセスしたいと思わせる」ことも必要だということです。 ぼくが福島第一原発観光地化計画で、「観光」という強い言葉を選んでいるのも、まずは関心をもってもらうためです。

記憶容量の制限が外れ、公的機関のデータのオープン化はすすみ、多くの個人が自分の「見られたい/見て欲しい」情報を公開していく中、情報は今後「オンラインに存在しているかどうか」ではなく、どうやって「検索の欲望」を喚起するかが重要だと東さんは主張します。

これって、数年前から言われている「エンゲージメントを求める団体や個人によるアテンションの奪い合い」の、一層の激化・日常化により生み出されたものですね。

そして、『まずは関心をもってもらうため』に非難を承知で強い言葉を選んでいると書かれています。

でもこれは、正しく使い続けなければ、不要な論争や無益な炎上を引き起こすことに直結するので、誰にでも気軽にオススメできることではありません。

また、アテンションだけをひたすら求めるような「ダークサイドに堕ちた」使い方をすれば、憎悪と金儲けしか生みださないことにもなり得ます。

「非難を承知で」とサラッと書かれていますが、ここには相当な覚悟が秘められていると私には思えます。

■移動にこそ欲望が詰まっている

身体を一定時間非日常のなかに「拘束」すること。そして新しい欲望が芽生えるのをゆっくりと待つこと。これこそが旅の目的であり、別に目的地にある「情報」はなんでもいい。

時間をかけて目的地を回るその道中で、じっくりものを考え、思考を深めることができる。観光=巡礼はその時間を確保するためにある。旅先で新しい情報に出会う必要はありません。出会うべきは新しい欲望なのです。 情報はいくらでも複製できるけど、時間は複製できない。欲望も複製できない。情報が無限にストック可能で、世界中どこからでもアクセスできるようになったいま、複製不可能なものは旅しかないのです。

欲望とは、知らない世界に対する好奇心。

欲望とは、知らない自分に対する好奇心。

欲望とは…。

んー。これ以上、俺が今、加えられることを見つけられません。

ということで、今から検索ワードを探す旅に出たいと思います。では!

Happy Collaboration!