『持続可能な資本主義』読書&セミナーメモ
鎌倉投信のファウンダーの一人である新井和宏さんの新しい書籍『持続可能な資本主義』の出版記念講演に、一週間ほど前ですが行ってきました。
約80分の講演は、その半分が本の中で書かれている話で、残りの半分が本には載せられなかった裏話という感じでした。そして最後には、当初の予定を変更して、会場から出た多数の質問ひとつひとつに時間をたっぷり取って答えてくれました。
講演会の話は最後にもう一度ちょっと書こうと思いますが、ここでは、ごちゃごちゃとしたままだった私の脳内の概念間のつながりを解きほぐしてくれて、もにょもにょとしか伝えられなかった自分の想いを力強く口にできるようにしてくれた、教科書であり強化書でもある『持続可能な資本主義』について書こうと思います。
三方よし + CSV = 八方よし
私は 「三方よし」を礼賛し「あれを取り戻せば良い」と言う話を聞くのが好きじゃありません。 「三方よし」そのものは良いのですが、それを現代に復活させろというのは無理だと思うし、単なる過去崇拝にも聞こえるからです。
私はCSVは素晴らしいコンセプトだと思っていますが、事例として耳にする話の多くに対しては「それってこれまでの短期的なキャンペーンとなにが違うんだっけ?」とか「“共有価値の実践”というより”お詫び・穴埋めとしての協力”って感じだな」って思うことも少なくありませんでした。(嫌なヤツだな俺!)
でも、この本で新井さんが提唱する「八方よし」には、とても素直にうなづけました。
1. 三方よしの「三方」を「八方」にしてみましょう 2. その八方すべてのステークホルダーとの間に「共通価値」を見出しましょう (…)現代は、「三方」で表せないほどに経済が複雑化しています(…)この「八方」は便宜上のものですから、それぞれの企業によって、その数は増えたり減ったりするでしょう。何れにしても重要なことは、「三方」より細やかにステークホルダーを想定し、企業がその全ての立場にとってメリットとなる「共通価値」をつくっていくこと
私なりに、この本で書かれている「八方よし」の背景をまとめてみます。 (私の視点が強く入り過ぎていて、新井さんに「違います!」と言われるかもしれませんが。)
- 日本、および資本主義は「企業は株主のもの」をスタート地点として、株主への「リターン = お金」の最大化を短期最適化する方向へと進んでいった
- 短期的リターンの最大化を進める上で、その状況を示すものとして分かりやすくまた権威的でもある「客観的評価」とその「指標」に極度に依存する体質となっていった
- 客観的指標は標準化して数値化しやすい「金銭的資本」ばかりを見て、「見えざる資産」(社会的価値や人間的価値)や「時間軸(持続性)」というモノサシは切り捨てられいった
- 企業の客観的指標を担保する「コーポレート・ガバナンス」は性悪説に基づいて監視やルールという制度で、企業に短期的リターンを追い求める株主の方ばかりを向かせるものになっている
- 「短期的リターンの最大化」は持続性とのトレードオフとなっている。「すべて破壊して作り直せば儲かる」というようなやり方はもう誰にも望まれていないのに
- そもそも会社は株主(だけ)のものではなく「社会の公器」。社会のさまざまなステークホルダーに認められるには、それぞれと双方にメリットとなる共通価値を築く必要がある
- 価格という理由だけで選ばれる「価格選好ベース企業」から、この企業だから応援したくなるという「ファンベース 企業」への転換が必要。ファンを生みだすのは企業の理念で、その理念が現実の行動と合っているかを監視しているのもファ ン。
- 顧客だけがファンとなるわけではない。社員、取引先、株主、地域住民、NPOや自治体、そして経営者自身も「いい会社」と思えるか
- 「いい会社」の定義として分かりやすいのが伊那食品工業の言葉: 「単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常生活の中で「いい会社だね」と言ってくださるような会社』 伊那食品工業経営理念「いい会社とは」より
- 「いい会社」にとっては社員の人件費も、取引先への支払いも、株主への配当も、コストではなく「付加価値の分配」。すべてを「コスト」と捉え極限まで切り詰めようとするのは、短期的最適化の間違った発想で、それでは「誰かの犠牲で成り立つ経済」は終わらない。
ひとこと言いたくなりました: これまでの資本主義ってコスパ悪くね?
(あ、ついついコストで考えちゃう悪い癖がww)
今晩、ビブリオバトルに初参加するのですが、この『持続可能な資本主義』を紹介してきます。
ということで昨日、説明資料を作ってみました。
うまく表示されない方はこちらのSlideShareからご覧ください。
もし、このブログ記事がきっかけで本を読んでみようかなと思う人が一人でもいれば、それは私が「いい会社をふやす」活動に少し貢献できたってことだと思うし、それはつまり「持続可能な資本主義」の実現への一端を担えたってことだと思う(拡大解釈して自分ごとにする力)ので嬉しいです。ぜひ読んでみてください。
最後に、講演最後のQAでビビッときたものをいくつか。
Q: お金はいらない社会になりますか? A: なるかもしれないけどまだしばらくはならないでしょうね。
Q: 幸せとは何? 生きる上での信念は? A: 幸せが何かは幸せな人を見ていればわかる。生きる上での信念は…愛。やっぱり愛でしょ。
Q: 人口減で日本はどうなる? A: 人口減は大チャンス。真の豊かさを考えると目指すべきが経済的成長ではないって理解するには最適ではないか。
Q: トランプ政権の誕生をどう思う? A: トランプはようやくたどり着いた"行き過ぎた資本主義"のラスボス。こいつをクリアすると次の世界が…!?
Q: なんで鎌倉なんですか? A: …品川が嫌いです。歩いている人が誰も笑ってないし、歩く向きまで決められてる。その点鎌倉はいいですよー。
Q:いい会社を増やすのに日常的にできることは? A: 消費も投資も寄付も、選ぶことが「いい会社」を増やすことにつながります。
Q:よくない会社にいる人はどうすればいいですか? A: まず力をつけましょう。そして身近なチームからスタートしましょう。
Q:社会はこれから変わっていきますか? A: AIに期待してる。ここ10年で笑顔や雰囲気が数値化され、企業の社員幸福度が発表されるようになっていけば大きく変わるんじゃないだろうか。
Happo Collaboration!