コペンハーゲンで空気をデザインしているマキタさんの話
マキタさんと初めて会ったのは昨年の11月、場所は東京でした。
デンマークのエコヴィレッジ(※)について話を聞ける機会はとても貴重で、その話に魅了された私は、今度コペンハーゲンを訪れる機会があったら、ぜひもっと話を聞かせて欲しいとお願いしていました。
そして今回、思っていたよりも早いタイミングで、マキタさんの話をじっくり聞ける機会をいただくことができました。
※ エコヴィレッジとは、持続可能性や自治性に重きを置き、サーキュラーエコノミーを実践する人びとの共同生活体です。 デンマークには、現在約150のエコヴィレッジが存在しているそうで、以下の記事ではコペンハーゲンからさほど遠くないいくつかのエコヴィレッジが紹介されています。
デンマークのくらし “エコビレッジ先進国で見つけた、持続可能なくらし”前編
マキタさんのクリスチャニアバイク
「いや、作れますよ。だってデンマーク人みんな作ってるじゃないですか、自分たちが欲しい住居を。仕事場を。 新鮮な空気が足りないと思ったら、自分で窓を開ければいい。職場の環境が悪いと感じたら『環境が悪いから変えて欲しい』と雇用主に言えばいい。 不満を感じているんだと伝えて、どうすれば良くできるかをみんなに聞いて、一緒に考えればいいじゃないですか。で、やってみてダメならまた考えればいい。 変えられますよ。」
イギリスで歴史的建築物の保存改修を学び、その後、8年前からデンマークで暮らすようになったマキタさん。
デンマーク人の奥さんの「これから長くデンマークに暮らすんだから、本当にやりたいことをもう一度学び直せばいい」という言葉に、デンマーク工科大学で建築環境工学/エネルギー設計学を学ぶことを決めたそうです。
そんなマキタさんの現在の専門領域は「空気のデザイン」です。
日本では聞きなれない「空気のデザイン」ですが、デンマークでは新しいビルを建てるときやオフィスなどをリノベーションする際など、空気の温度や湿度、換気方法、日光の取り入れ方など、理想的な空気環境をさまざまなデータを基に科学的かつ心理的にデザインするのが一般的になってきているそうです。
例えば、快適な空気環境の場所で仕事をすることにより、人間の生産効率は15パーセント上がるという数値データや、精神的なストレスが下がることで健康状態を良くし、退職率や欠勤率の低下につながるという調査報告など。
こうしたものを考えれば、空気のデザインは建物の持ち主にも雇用主も、そこで働いたり過ごしたりする人たちに大きな価値を与えることだということが分かります。
近い将来、日本でも、空気がデザインされていないオフィスや建物は受け入れられないようになるんじゃないでしょうか。
さらに、「自分たちが欲しいものをストレートに求めていく」「良いものにする方法が分かったら、どんどんそれを展開していく」という考え方や、「言っても無理だろうから無駄」と諦めたり決めつけたりせずに行動を取っていくことが大切なんじゃないでしょうか。
80社120人以上が集っているシェアオフィス5teSTEDの共有キッチン。マキタさんが働いているhenrik • innovationも参加オフィスの一つ
「建物を一つ作るにしても、デンマーク人は急ぎ過ぎないんですよ。いろんなステークホルダーに話を聞いて、議論しながら進めていく。 長いスパンで見て、できるだけ無駄を生み出さないように。できるだけ既に在るもの、古いものをそのまま活かせるようにってみんなが考えてる。 長く使えて環境負荷の低いものが本当にいいものだっていう価値観を、建築関係者が共有のナレッジとして持っているんですよね。そうじゃないものが市民に受け入れられないことも分かってるし。 『人を魅了する快適な建物』には、まだ数値的には置き換えられないものがある。お金だけでは計れない要素がたくさんあるってことを、ここの人たちは感覚的に理解してるんすよ。」
今回デンマークで11日間過ごして印象的だったことの一つは、フィードバックを求める人が多いということでした。
「あなたはこれをどう思うか?」「あなたの好みや希望はなんなのか」を、さまざまな場面で聞かれた気がします。
ただ、おもしろいのはそこからで、こちらが伝えた意見はあくまでも「一つの意見」としてしか捉えられないということです。
一つの意見としては尊重されこそすれど、相手の意見や行動を変えることにはすぐにつながらないことが多い気がしました。
「一つひとつの意見は重要だが、同時に参考にすべき一つの意見でしかない」という当たり前のことを、皆が前提にしている感じを受けました。
異なる意見があるのは当然で、それが受け入れられないことがあるのも当然。
違いはそのまま違いのままにしておけばよくて、同じように合わせたり揃えたりする必要などない。それぞれが自分の考えや好みに人々の意見を反映させるかさせないかを、自由に考えて決めればよいということ。
…こんなこと、デンマークに暮らす人たちにとってはあまりに当たり前で、何を言っているのかピンとこなそうな気がします。
同行した[IDEAS FOR GOOD]の取材を受けるマキタさん
「デンマークすごい嫌いでしたよ。人も気候も冷たいし、最初の3-4年は寂しかった…。 でもだんだん「人は人、自分は自分」っていうスタンスに馴染んできた。本当に深い部分は簡単には見せてくれないんだけどね。 実際、この国に暮らしていて『世界一しあわせな国』なんてちっとも思わない。でも国として『悲しくならないようにしよう』『安心を提供しよう』としているのは感じるし、熱心に取り組んでいると思う。自分も、建築や設計の世界に関係する者として、使う人も作る人も、みんなをしあわせにする建物を作れたらサイコーだなって思ってるし。 デンマークって小さな国だけど、良いものを広めていくための大きなデザインが本当に得意な国なんすよ。逆にディテールを詰めるのは苦手だったりするんだけどね。 でもそうやってグランドデザインを作って伝えていくのが上手なことで、自分たちの価値を内外に広く発信することができている。 人びとがそれを大事にしていて、『もっと良くしていこう。もっと良くできるはず』って考えていて、実際に少しづついい方向に向かっているのがデンマークという社会だと思う。みんなが本気でそれを目指しているんじゃないかな。 変えられる。作り出せるってね。」
この旅では、その本気さが自分たちの社会の持続可能性を高めていこうという取り組みに強くつながっていることも、さまざまな場面で感じることができました。
また、グランドデザインとオープンソース、そしてマニフェストこそが、現在のデンマークの文化を特徴づける重要なポイントなのではないか? という仮説につながりました。
近いうちに、この点について深掘りしてみようと思っています。
Happy Collaboration!