デンマークから学ぶ - スズキさん講演メモ
私は去年、初めてデンマークに行きすっかり恋に落ち、そして先月、再びデンマークを訪問してきました。その間、日本でいろんなデンマーク関連のイベントに参加したり本を読んだりしてデンマーク研究をしてきました。
その研究の間に見つけたのが、デンマークに暮らしながら日本に向けてメッセージを送り続けているケンジ ステファン スズキさんのウェブページ「風のがっこう ステファンのデンマーク便り」です。
ウェブページにはメーリングリストもあり、私も参加しているのですが、ウェブページが更新されるたびに、そしてメーリングリストからメッセージが届くたびに、「一度、スズキさんのお話を直接聞いてみたいなぁ」と思っていました。
そしてついに先週末、NPO法人支えあう21世紀さんが、東京での講演会を開催してくれたのです!
1年間の研究で、私もかなりデンマークには詳しくなりましたが、なにしろスズキさんはデンマークに引っ越してすでに50年以上が経っているという「肌でデンマークを知り抜いている人」です。このチャンスにたくさんの話をスズキさんから聞いてきました。
今回は、私の持っているわずかな知識も追加しつつ、「スズキさん講演メモ」としてブログに記載しておきます。 (なお記載内容に誤りがある場合、私自身の聞き間違いや認識違いが原因と思われます。)
■ デンマークの家庭・教育・仕事について
- デンマークの95パーセントは核家族で、父親の96パーセント、母親の89パーセントが就業している。
- デンマークは基本的に教育費は無償で親や子が負担する必要はない。なお、子どもが大学生になると、生活費は国から支給されるようになる(親が子どもの生活の面倒を見る必要はない)。
- 子どもの夏休みは7週間で、一般的な就業者の夏休みは3週間。7月の第2週から7月一杯は多くの企業が夏休みとなる。
- サラリーマンの年間平均労働時間は1,457時間。日本より300時間ほど少ない。
- デンマークでは国や労働組合が勤務時間が週37時間を上回らないよう施策を取っている(なお、実際の勤務時間は32時間程度ではないか、とのこと)。例えば、残業代は1日2時間までは50パー増しで、それ以上は100パー増しとなる。
- デンマークには920の職種があり、それぞれが職種労働組合を持っていて職場が変わっても職種が同じなら給与は基本的には変わらない。
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デンマーク × 働きかた – イベントレポート
■ デンマークの政治と宗教
- 国民の1/5が首都コペンハーゲンで暮らしていて、一極集中している(ただし、人口過密とはなっていない)。対策として今年、政府は中央政府職員8,000人分の職を地方へ移動させようとしている(これまですでに15,000人分の職を移動済み)。
- 数年前から中学生による「ジュニア選挙」を実施。「国が抱えてる23項目の検討課題」をベースに中学生が投票して、実際の選挙を占うものになっている(ほぼ同様の結果がでるらしい)。
- デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの3国は、政策や言語も似た部分が多く、教育の仕組みも似ている(学校の卒業資格などは3国で共通使用されているらしい)。
- デンマーク国教会は福音ルーテル教会をベースにしており、国民の約8割が信者。牧師は公務員で、教会運営のための「教会税」がある。
- 政治家や公務員に対する信頼が高く、汚職が世界で最も少ない国。それは人としてあるべき姿を小学生から高等教育まで教え続ける倫理教育と、「職を汚す」という行為を決して許さない職業組合の強さと、「公務」に対するオープン性を求める国民性がもたらしている。
どなたか、デンマークの「国が抱えてる23項目の検討課題」をご存知の方がいらっしゃったら教えてください。調べてみたものの、分かりませんでした。
■ デンマークのエネルギーと農業
- 風車を立てたら、そこで生まれる電力の最低2割を地域(4.5キロ)住民に提供しなければいけないという義務がある。なお、風車からの売り上げは、日本円で約14万円まではノータックスにして個人の風力発電を奨励している。
- デンマークの現在のエネルギー自給率は現在85%。1972年は2%、1980年は5%、1990年は51%だった。
- バイオガス導入も積極的に進めているが、それは自国が酪農大国であり、糞尿の処理問題と環境問題を多元的に考えた結果、糞尿処理の技術を高めてバイオガスというエネルギーを得る方策を進めた。デンマークの飲料水は地下水で、国民の健康のために塩素での消毒を認めていない。そして家畜の糞尿による地下水汚染を防止するために、冬の期間の糞尿肥料の使用を禁止している。
- デンマークでは220ボルトで世界の標準的な数値。なお、100ボルトという低配電していない国は、アジアでは日本と北朝鮮だけで、韓国や中国でも250ボルト。
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一人じゃ学びも限定的だし、ヒュッゲも味わえやしない
■ デンマークの民主主義とスズキさんへの質問
- [質問1] ヤンテロー(ヤンテの掟)について - 私がこれまで話をしてきたデンマーク人のほとんどから「ヤンテの掟はすでに昔のもの、あるいはあると言われていたものに過ぎず、実際にそれを感じている人はいないのではないか?」と聞いているが、今も影響があるのか? [回答1]今でも高学歴者層を中心に自己への戒めとして使われていると思う。ただ、ヤンテローは20世紀の前半に「戦争に対する時代の反省」としてデンマーク社会に広がったもので、現代ではすでに国民の土台となっていて、表面的に語られることも意識されることもなくなっているんではないか。
- [質問2] フォルケホイスコーレ(※)について「デンマーク人の間ではあまり利用されなくなってきている」というような話も耳にすることがあるのだが、デンマークで暮らしていてどう見ているか。感じているか教えていただけますか? [回答2] フォルケホイスコーレ自体は数的にも減ってきていると思う。一つの理由として、デンマークの教育が、子どもの頃から生きかたや哲学的なことをきちんと教える方向でどんどん進化していることもあり、大人になってからまとまった時間を取ってそうしたことを考える時間を必要とする大人が減っているせいではないか。
※ フォルケホイスコーレとは 17.5歳以上を対象とした全寮制の学校。デンマーク国内の学校はデンマーク人には無償となっている。通常は数カ月のコースだが、最近は参加を希望する日本の社会人も多くて、そのせいか1週間程度の短期コースも増えている模様。
この「デンマークの民主主義」と、その成立の根本となっている「信頼感の高さ」。私はこれに完全にノックアウトされています。ちなみに、日本の「あなたは他の人を信頼しますか?」へのYesという答えは39%、アメリカは35%、ドイツは45%だそうです。
これを自分たちのものにするためにはどこから手をつければいいのか…。答えは分かりませんが、何であれアクションを取らない限り、手に入れることはできないんじゃないでしょうか。
Happy Collaboration!