小山さんと大川さん
小山さんは、自分に課せられた課題や難題に対する苦労や悩み、行き詰まりを上司以外に一切伝えることなく、自分の力で黙々と解いていく人でした。それこそが「デキル」ビジネス・パーソンに求められる行動だと信じて。
ところがある日、難題にウンウンと唸っている小山さんの元にやってきた上司の大川さんが言いました。 「小山君の働き方は、我が社にとってもこの部門にとってもマイナスなんだ、改めて欲しい。それに、君自身にとっても大きなマイナスだよ。」
「小山君が努力しているのは分かっているよ。そして君自分の持つ力を100パーセント発揮していることもね。ただ…」 「ただ、なんでしょう?」
「はい。しかし…」 「これは、会社から見れば有用なリソースを活用して仕事をしていないってことだ。そして本来得られるメリットを会社に提供していないということだよ。 それに、周りの社員の成長機会を奪っていることにもなる。」
ある部分には納得できたものの腑に落ちない点もあります。小山さんは質問せずにはいられませんでした。
「はあ…。」 小山さんはそう言って下を向いてしまいました。
「どうやらその口ぶりじゃ、社内にソーシャル・コラボレーション・ツールがあるのを知らないようだね。 Twitterは知っているよね? あんな感じで社内の人とつながり、みんなに短いメッセージを伝えるマイクロブログって機能があるんだよ。 あれなら気軽に今何に困ってるとか、何に取り組んでるって言いやすいだろ。 それにマイクロブログなら、ちょっとした空き時間を見つけた相手が読んでくれるものだから、メールで『送りつける』て相手に読ませるような感覚を持たれることもないさ。」 「なるほどそうですね。でも、あれでは背景や状況など、細かい部分が伝えられないのでないでしょうか?」 「そうだな。でも、うちの会社のマイクロブログは500文字程度かけるので、結構長い文章でも大丈夫だよ。ただ、マイクロブログであまり長く書かれても、見る側からするとちょっとピンと来ないところは確かにあるな。 それならブログはどうだろう。社内の人間にしか見ることはできないから、ある程度自由に自分がどんな問題で困ってるとか、どんなサポートが欲しいかを、これまでの経緯なんかとあわせて伝えることができるよ。」
「んー。」小山さんはそう言って再び下を向いてしまいました。
「なんだい。何か言いたそうだね」
「それはその通りだ。でも違うんだ。ただひたすら頭の中でいろいろと考え続けるよりも、人にわかるように状況を書く、つまりアウトプットを作ることで、自分自身の頭も整理できるんだよ。それだけでかけた時間の元が取れることも多いぞ。」 「なるほど」 「そしてもし、助けを買って出てくれる人が出てきてくれれば、新たに自分の時間を作り出すことができる。そこでまた別の取り組みについて発信するのもいいし、自分と同じように困っている誰かを助けることにその時間を使ってもいいじゃないか」 「そうですね。でも、手を貸してくれる人なんて、本当にいるんでしょうか? みんな忙しくて、それどころじゃないんじゃないでしょうか?」 「みんな忙しいのは事実だよね。でも『xxxについては私のほうが作業が早い』とか、『xxxさんを紹介してあげれば事はずっとスムーズに進む』とか、みんなそれくらいの手伝いなら十分やりくりできるって判断して手を貸してくれるんだ。 それに、人はたいてい手を貸してもらうと、次に自分が手を貸せるチャンスがあれば報いたいと思うものだし、自分が手を貸すことで全体の時間が早くなれば、自分の仕事に手を貸してくれる人が増えることも経験的に知っているしね。
小山さんの顔がパッと明るくなりました。 「 これまで、自分が困っているとか悩んでいるとか、そんなことを伝えたら迷惑をかけるだけだと思っていたけど、違うんですね。 みんなに助けてもらえるところは助けてもらったほうが、私の仕事はずっと捗るし質も高くなる。そして助けてもらうことで得た時間で、私がみんなを助けることができる。
10分後、コーヒーを買って席に戻った大川さんが社内ソーシャル・ツールをチェックすると、小山さんから招待メッセージが届いていました。
Happy Collaboration!