Collaboration Energizer | #混ぜなきゃ危険 | 八木橋パチ

コラボレーション・エナジャイザーとは、コラボレーションの場を作り、場のエネルギーを高め、何かが生みだされることを支援する人

『企業変革を牽引する新世代リーダー ダイナモ人を呼び起こせ』読書メモ

 

「大企業に残っている希少なダイナモ人の1人であるパチさんへ」という言葉と共に、著者(知識創造プリンシプルコンソーシアム)陣のお一人である荻原さんから献本いただきました。

照れくさいけど嬉しいな!

 

…しかし、読み進めていくうちに段々と「いや、おれは本当にダイナモ人だろうか。もはや違うのではないか?」と何度か自問自答していました。

でも結論を書くと、おれは今もダイナモ人です。

 

ただ、大きなピボットをしたことで昔ほどその活動が分りやすくなくなっていて、それ自体に対してまだ自分のなかで若干不慣れところが残っていて、今も出力先と出力方法のチューンナップを続けているところ。といったところだという自己認識です。


 

さて、本のタイトルにもなっている「ダイナモ人」とはなんでしょう。

本の中から引用してみます。(なお、このメモの最後に「9つのダイナモの行動様式」も引用しておきます。詳しく知りたい方はそちらも見てください)。

ナレッジ・ワーカーであり、企業家精神を持ち、顧客や社会の課題に取り組むことを通じて、本気で自分と自社を革新する人

企業変革を牽引する新世代リーダー ダイナモ人を呼び起こせ』より

 

 

ところで、ダイナモと聞くと、おれは真っ先にサッカーが頭に浮かびます。
ダーヴィッツ、北澤、ジェラード…。はたして、どれくらいの人がこれらの選手を知っているでしょうか?

 

「中盤のダイナモ」 — 豊富な運動量を持ち、攻守に幅広く動き回りチームを鼓舞しその原動力となる選手。

 

いつからか、サッカー界ではダイナモという言葉はあまり使われなくなりました。平成時代にサッカーを観ていた人たちじゃないと、「中盤のダイナモ」って聞いた覚えがないかもしれないですね。

ファンタジスタなんて言葉もそうかな?


 

…と、少し懐かしいサッカー用語について書いたのには、ちょっとした意味があります。

それは、個人的にこの本がどこか、平成や昭和を思わせる本だったからです。

読んでいて、経営層や管理職向け、あるいはミレニアルズよりも上の世代向けという感じがしてなりませんでした。

 

 

ただそうは言っても、書かれている内容が懐古主義的だとか古臭いとかそういう意味ではありません。

むしろ、現在の社会情勢を相当な叡智で捉えているし、言及・参照される経営手法や取り組みなども日本ではまだあまり知られていない最先端のものばかりです。

例えば…

 

・ 日本の経団連に相当する、米主要企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルの「株主第一主義」から「持続可能性を重視した資本主義」への転換宣言

・ フランスの利益以外の目標を達成する責任を負う「使命を果たす会社」形態を認める新法制定

・ 営利組織が母体となった非営利イノベーションセンター「LEO Innovation lab」や、デンマーク・デザイン・センターの新卒学生向けスタートアップ支援プログラム「Innofounder」、個人の成長と事業を通じたポジティブな社会変革を目的とし“世界で最も刺激的なビジネススクールと呼ばれている「Kaospilot

 

これらの他にもB Corporation(B-Corp)やリビングラボ、ティール組織、デザイン思考からアート思考へなどなど、ここ1-2年よく耳にする取り組みのそのキモを踏まえた分析が書かれています。

でも、それらはあくまでも添え物。

この本には「流行りのイノベーション手法や経営手法を追い求めていても、人的な側面を中心に置いたプリンシプルへと変革しなければ、なんら変わりやしない」というキーメッセージが、最初から最後まで、通奏低音として常に流れ続けています。

 

以下、各章のタイトルとその内容の一部を紹介します。

▶︎ 第一章「先のない企業の物語」
日本企業の現状: 逃げ切りを図る経営層、目先の成果に固執する管理職、指示に従うのみの若手。
▶︎ 第二章「システムだ、愚か者」
日本的経営システム: 組織活力を削ぎ価値を生みだせない借り物の経営手法で固めた経営システム。
▶︎ 第三章「経営プリンシプルの総取り替え」
ダイナモ人の復権を中心に据えた、未来を取り戻す新しい知識創造型「10のプリンシプル」。
▶︎ 第四章「ダイナモを生みだせ」
ダイナモ人を生みだす土壌づくりと経営者、管理職、若手それぞれのダイナモ人の行動様式と役割。
▶︎ 第五章「ダイナモ革新の道筋」
ダイナモ活躍の場を中心とした「ダイナモ革新」へのチェンジ・マネジメントの道筋と実際の手順。

 


 

本を読み進め、最後の「あとがき」に書かれた下記の言葉を読んで、先ほど書いた「平成や昭和を思わせる本」というもやっとした感覚が、少し晴れました。

 

この本の執筆は、最初から難しい選択に迫られました。それは想定する読者を経営者に絞るのか、あるいは若い世代を中心とする「ダイナモ」にするのかでした(…)「リーダーシップを発揮せよ!」と経営者を鼓舞する本は、ごまんとあります。若い世代に向かって、「時代は変わった!」とアピールする本も同様です。しかし、経験からわかっていたのは、どちらか一方だけでは、革新的な組織変化は起こせないということでした。情熱を心に秘めた経営者と若い世代が、一緒に読めて、ともに行動を起こすよう後押しすること、それがこの本の目的でした。

 

なるほど。この観点はとても大切だとおれも思います。

まだ読んでいないのですが、コトラーの最新刊『Marketing 5.0: Technology for Humanity』のキーメッセージの一つも「世代間ギャップをどう埋めるかを意識しつつビジネスを展開すべし」だそうです。

 

世の中に多く出回っている経営手法やイノベーション手法に関する本は、違いを明確にするばかりで、そこに橋をかけようという意識が足りていない気がしていました。どちらかの層に耳あたりが良いものは、たいていそれゆえに逆の層に疎ましさを感じさせてしまうものです。

違いをくっきりと浮き上がらせるだけで止めてしまうのは、むしろ分断を深めることにつながりかねません。

難しいのは、違いを明確にすることでははありません。橋をかけることです。

 

そんな観点から、おれはこの本はむしろミレニアルズ、Z世代、ジェンα(アルファ)に読んでもらいたいと思ったし、彼らからの反応が(それが称賛であれ批判であれ)あちこちから聞こえてくることこそが、この本がその価値を本当に発揮しているということになるのではないでしょうか。
(なお、著者たちと同世代の人たちが、この本を称賛で迎え入れることは間違いないでしょう。)

 

最後に、いくつか本から引用します。

 

イノベーションや変化を声高に求めながら、もう一方では、その原動力たるダイナモの居場所を奪ってきた経営は、環境破壊をしながら地球環境の大切さを叫ぶ私たちの姿にダブるものがある。持続可能な社会づくりに私たちの行動原則の変容が求められるのと同様に、イノベーションや変革を生みだす組織づくりには、経営の原則の変容が求められる。そして、その鍵は、企業にダイナモ的な生き方、すなわち人間らしさや野生みを許容する「知識創造の原則(プリンシプル)」にあるというのが、筆者の長年の研究・実践からの結論である。

 

 

 利他主義は、今後の企業の経営のプリンシプルの大きな軸になることは言うまでもないが、実はその原点には環境革命という大きな人類的な移行期が背景にある(…)見える化自体が問題ではない。しかし、過剰にすべてを見える化しようとする態度や思考は可能性を排除していく(…)ドイツの実存主義哲学者のマルティン・ハイデッガーは、昨日と同じような行動を続けながら漠然と未来に期待する人間を、本来的でないと考えて「非本来的実存」と呼んだ。しばしば私たちは、従来の仕組みや日常に埋没し、忙殺され、現在を目前の事柄としてしか認識できず、過去のことを忘れ、未来もぼんやりしたものとしかとらえず、なんとなく明日に期待しながら生きている。しかし、本来、私たちのあるべき「現存在」は、決意的に未来に先駆けようとするものだ。

 

 ダイナモの9つの行動様式

・ 目的に尖る: ダイナモは理想をあきらめない人であり、その目的達成に全力を尽くす人である。

・ 行動主義: 精緻な分析をする前にまず自ら動き、行動から得る学やネットワークを重視する。

・ 可能性主義: 現実化させられるかどうかは、自分たちの行動次第という感覚で、可能性が小さそうでも、そちらに懸ける。

・ 圧倒的熱量: 決してあきらめないという強い決意、ほとばしる情熱、他人を思いやる優しい心、冷静かつ機転のきく頭脳

・ 巻き込み力: 伝説の求人広告をご存知だろうか? アイルランド人探検家のアーネスト・ヘンリー・シャクルトンが1914年にロンドンタイムスに出した、「大英帝国南極横断探検隊」の隊員募集の広告のコピーである。
“Men wanted for hazardous journey. Low wages, bitter cold, long hours of complete darkness. Safe return doubtful. Honour and recognition in event of success.”
「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の続く日々。絶えざる危険。生還の保証なし。ただし、成功の暁には名誉と賞賛」

・ 勇気と鈍感力: 自らのものの見方や行動が世間や常識からズレていることを気にせず、変人と認識されることを受け入れる度量

・ 共感力: 世の中をマクロ(かたまり)ではなく、喜怒哀楽に満ちた人々の集合体としてとらえる

・ 越境する力: 自分の組織・業界・」学問分野・国境を軽々と越えて、新しい組み合わせや知をつくりだす

・ 知的奔放さ: いたずらっ子のような好奇心と、それを言動に移す大胆さ。目的に向かったときの一途さ。そして、自らの志や夢を臆面もなく語る純粋さ。

 


 

Happy Collaboration!