エナジャイザー兄弟
その日、僕は意を決して船橋市の某所に向かっていた 某所と言っても自宅からもほど近い、徒歩範囲の小綺麗なマンションだった(どうやら「うれし、たのし、ふなばし」なんてマンションポエムでも有名なマンションらしい)。
突然すいません。でも、どうしても話を聞いて貰いたいんです。少しでもいいんでお願いします。 不躾なのは分かっていた。でも、手紙や電話では埒があかなそうな気がしていたからこそ、突撃することにしたのだ。 もう一度、インターフォンのカメラに向かってしっかりと、そしてはっきりと僕は言った。
僕にとってだけじゃなく、おそらくあなたにとっても大変重要なことだと思って参りました。 『地元のマンションポエムがおもしろい - デイリーポータルZ』より
しばらく待つようにと通されたリビングのソファはとても大きくて高価そうだった。これがこないだかっぴーさんのマンガで初めて知ったコルビジェってやつ…?
できるだけ落ち着いている振りを装いながら、僕は部屋を見渡していた。どこかにあの黄色い戦闘服が置かれていないかと。
カップを2つ持った彼が現れた。
なにも言わず1つを僕の前に置くと、目で合図を送ってきた「どうぞ話してください」。
やっぱりそうだ。戦闘服の下に隠された顔は、目元も口もとも親父にそっくりだ、…いや違う、僕にそっくりだ。
はじめまして。Pachiと申します。お時間を頂きありがとうございます。 お忙しいのは承知していますので、早速ですが本題に入らせていただきます。 僕は…その…あなたの弟なんです。
彼はそっと目を閉じしばらくそのままでいた。何秒くらい過ぎたろう…ようやく目を開けると目で合図を送ってきた「続けて」。
亡くなった父の部屋を整理していたら僕宛ての手紙が出てきました。そこに書かれていたのは、まったく想像もしていないものでした。 実は僕には兄がいたこと。その兄が船橋市に住んでいること。そして最近大人気でメディアからもで取り上げられていて、これまでの枠を大きく超えたコラボレーションを進めていること…。
父は、僕がコラボレーション・エナジャイザーと名乗りながらも、まだまだ発展途上であることを知っていたのでしょう。 そして、兄が一歩も二歩も先を歩んでいるのも。。。 (『おしゃ家ソムリエおしゃ子!(1)』より』)
2杯目のコーヒーを頂きながら、僕は話を続けていた。
失礼ですが、最初は変わったキャラでおもしろいなとは思っても、特段興味は覚えなかったんです。 でも、ちょくちょく目にするうちに「この人は何かと戦っている。何かを変えようとしている」って気が付きました。
「空気を変える術」を駆使し、予定調和や場の硬直を体を張って壊していく能力… 粗忽で危なっかそうに見えつつも、ポジティブな影響を与え続けるブレないスタンス… アイデアと行動で、「無理」を突破して周囲を巻き込んでいく影響力… 業種業界、官民を問わないどころか、野菜や果物とまでありとあらゆるものとコラボレーションしていくバイタリティー… 偽善と呼ばれようがなんと言われようが、良い方向に一歩でも近づくためなら何でもやっていこうという信念…
あるとき、気がつきました。この人はゆるキャラなんかじゃないって。
あなたのしていることは、権力を使わずに周囲をまとめていく強力なリーダーシップの発揮に他ならないと思います。 何かを生み出すために人びとの心をまとめ場を導いていく姿は、相当オリジナリティーの高いファシリテーターのそれです。 そして周囲を励ましたり挑発したりと刺激し続ける姿は、文字通りエナジャイザーです。
兄さん、あなたは僕がやりたいと思っていることを実現しています。僕の目標と言ってもいい。 そんな人が僕の兄さんであることを、僕は誇りに思っています。 今日はそれを伝えたかった…。そんな兄さんを目指している弟がいることを、知って欲しかったなっしー。
今、僕の気持ちはとてもすがすがしくて穏やかだ。
彼は結局、僕の兄であることをはっきりとは認めなかった。でも、そんなことはもうどうだって良かった。
だって今、僕の手と心には、最後に交わした熱い握手の感触が残っているし、耳と心にはヒャッハー の声が残っているから。
さあ、明日から2段ジャンプとヘッドバンギング、そして梨汁ブシャーを練習しなくちゃ。