社内ポータルと社内ソーシャルの違い
最近何人かの方に「社内ポータルと社内ソーシャルの役割の違いは?」「社内ポータルがあるのに社内ソーシャルを持つ意味は?」という質問をいただきました。
「またその話か…」という方もいるのでしょうが、繰り返されるということはそれだけ多くの人が疑問に持つからだと言えます。そして、何度となく議論されるということはそれだけ重要だったり、分かりづらかったり、スッキリ腹落ちしないからということでしょう。
そんなわけで、私の考える「ソーシャルとポータルの本質的な違い」について書きます。そして、社内ポータルしかない状態と社内ソーシャルがある状態とで何が違うのか、どう変わってくるのかについて書きますね。
なお、これは私のIBM社内での経験や、それに対する考えを基にしたものです。ただし、「では実際にそうなっているのですね」と問われると、部分的にしか実現していない部分があることはお伝えしておきます。
■ ソーシャルの特性(ポータルとの違い)
即時性(コンテンツは誰もが即時公開できる) 有用性(より詳細で現場寄りの情報) 双方向性(コンテンツを出す側と受け取る側が流動的)
・ 即時性 - スピード感と正確性
コンテンツの中身が、確認〜承認という複数の人が関わるプロセスを経て公開されるのがポータル。その特性からコンテンツの正確性に重きが置かれ、即時性(スピード感)や情報量はトレードオフされる。
一方のソーシャルはユーザーが誰もがいつでも発信できる特性から、即時性が重視されがち。
・有用性 - 業務・興味・関心によるつながり
コンテンツの発信容易性から自身と近い属性の社員から発信される情報が大幅に増え、業務内容や作業内容、専門性や部門、興味や関心など、より多くの社員が「自分に必要なもの」と思える情報をタイムリーに得られるようになるのがソーシャル。
ポータルは情報量が少なく、また発信者との「距離」から有用性が低いことも多い。
・ 双方向性 - 誰が価値を決めるのか、作るのか
コンテンツ発信の可否やタイミング、配置位置などを決めるのが管理者なのがポータル。ユーザーが自分で決められるのがソーシャル。
さらに「いいね」やコメントにより、情報を受け取る側のユーザーがコンテンツに価値を付与できるのがソーシャル。
■ 特性の違いがもたらす違い
「誰が何に何をした」というユーザーの行動情報が、人のつながりをベースとしたネットワーク(タイムライン)に流れることで、価値が高いコンテンツが自動的かつ長期間にわたって繰り返し認知・活用されるのがソーシャル。
一方のポータルでは、価値の高いコンテンツであっても、長期間にわたり繰り返し認知・活用されるようにするには、管理者が継続的になんらかのアクションを取る必要がある。
上記の特性の違いをまとめて考えると、ソーシャルを「より民主的なコンテンツのプラットフォーム」、ポータルを「権威的なコンテンツのプラットフォーム」と表現することもできる。
別の捉え方をすれば、限られた「管理者」という権力者が、限られた情報を見させるためのプラットフォームがポータルであり、以下のケースではソーシャルの必要性は低い(あるいは無い方が良い):
社員が必要としている情報が、活用可能な形ですでに十分提供されている 限られた数の情報発信者で、今後も社員のニーズに十分応えられる 社員の声が別の社員に届くのは会社にとって都合が悪い
注意すべきこと、検討事項や今後の見通しとしては、以下の点を踏まえておくべきだと思っています。
■ コンテンツの管理について
前述したように、ソーシャルは、個人により即時性を重視したコンテンツが発信される特徴を持っている。ポータルは、その公開プロセスの特性から、コンテンツは個人ではなく部門や組織が所有者となることが多い。
この特徴を踏まえると、コンテンツの正確性の担保は以下が原則となる:
ポータル上のコンテンツ: コンテンツ所有者(部門や組織)が正確性を担保 ソーシャル上のコンテンツ: 利用者/受信者が自身で正確性を確認(発信者は正確性を担保しない)
そして、これが意味することは次のように表現することもできる:
ソーシャルに「正確性」を求め過ぎると、個人は萎縮し発信へのモチベーションを失ってしまう → 社員が求めている「鮮度と有用性の高い情報」が発信されなくなる → 社内ソーシャルを有する意味を失う(あるいは大きく減少させる)
ここからは、社内ポータルとソーシャルの違いではないのですが、この流れを踏まえて「社内ソーシャルについて意識しておくべきこと」を少しだけ書いておきます。
■ コンテンツ発信者のモチベーションと心理的安全性
コンテンツ発信に対するモチベーションを上げる、あるいは維持できるような仕組みがなければ、ソーシャル上のコンテンツは増えずに存在価値は下がっていく。
発信者のモチベーション維持には、発信者へなんらかの報酬が与えられることが望ましい。 (報酬には外発的欲求に応えるものと内発的欲求に応えるものがあるが、ここではその中身には踏み込まず、簡単に「報酬が必要」だということだけを明記する。)
社内ソーシャルにおける発信において、モチベーションと並んでもう一つ重要なのが心理的安全性だ。
心理的安全性が感じられない場では、人は「発信」をリスクと認識する傾向が高い。そのため、発信にはより一層の強い必然性やモチベーション、報酬などが求められるようになり、組織全体として発信が必要とするコストが高まる。 心理的安全性については、こちらの記事も参考にしてください:
【レポート】社会と組織を幸せにする"関係"とは http://www.ecozzeria.jp/events/special/event0119.html
■ 社内ソーシャルの今後 - 形式知化とコグニティブ
社員の持つデータの90%以上が個人端末かあるいは本人の脳内にしか保存されておらず、また多くの暗黙知は形式知化されていないと言われている。
つまり、データや知識は別の社員が活用できないままになっているということだ。
今後、分析技術の発展に伴い、データの重要性は一層増していくと考えられるが、多くの社外のデータが購入可能なのに対し、社内で社員が発信したデータはその企業固有のものであり、購入する方法がない。
知識が表出し形式知化される多くのきっかけが「問いとそれに対する答え」であることを踏まえると、コミュニケーションやコラボレーションがデータ化されていく社内ソーシャルの価値は、コグニティブ・コンピューティングへの注目と共に高まるだろう。
後半部分は蛇足だったかな? ただこれも最近よく社内ソーシャルについての会話で話していることなので、書いておきました。
そうそう、そういえばつい先日、IBMの社内ポータル「yourIBM」が「10 Best Intranets of 2017」に選ばれたんです。
2017 Intranet Design Annual Winners https://www.nngroup.com/news/item/2017-intranet-design-awards/
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