Collaboration Energizer | #混ぜなきゃ危険 | 八木橋パチ

コラボレーション・エナジャイザーとは、コラボレーションの場を作り、場のエネルギーを高め、何かが生みだされることを支援する人

SDGsアップデート

 

おれが勤務しているIBMには「今こそ聞きたいSDGs」という隔週の社内向けシリーズセミナーがあり、毎回、SDGsに関連するテーマのスペシャリスト社員が登壇して40分程度の講義を行なっています。

おれもこれまでに開催された14回のほぼすべてに参加していて、毎回なんらかの新しい学びがあります。


来月、そのシリーズで登壇する側に回ることとなったのですが、はて、おれがスペシャリストとして説明できることって何かあったかなぁ。「IBM社員に役立つSDGs関連のおれのスペシャリティってなんだろう?」と考えてみたところ…うーんなかなか難しい。それってやっぱり「IBM社員らしくないSDGsの受け止め方」なのかなぁと。

そうだとすれば、おれが自然に最近の「SDGs関連で学んだことやこれは知っておいた方がいいなと思ったこと」を並べていけば、案外「今こそ聞きたいSDGs」になったりするんじゃないかしら? ということで、ここ2〜3カ月で学んだことや気になっていることを中心に話すことにしました。

今回はその準備をここにまとめておきます。

 

なお、1年ほど前に「日本のビジネスパーソン向けSDGs最新動向 | 15分版偏りあり」という記事も書いています。ご参考まで。

 

■ はじめに

SDGsは2030年までの目標ですが、本当の目標は2050年、2100年であり、そこに至る中間地点における目標に過ぎません。必要なのは「レビューのための数字合わせ」ではなく、真の目標達成に向けた正しいアプローチを実践し続けることです。

ここではまず、国連がSDGs達成に向けて推進しているESD(Education for Sustainable Development | 持続発展教育)の中で必要とされている、7つのキーコンピテンシーを紹介します(なお、文言は一部変更しています)。

 

  •  システム思考 | 問題の複雑な発生メカニズムをシステムとして包括的に捉え、問題の原因を特定し、体系的に対策をとっていく能力。
  •  予測 | 複数の将来を予測し、それぞれの不確実性を正しく考慮して、将来に向けた対策を検討する能力。
  •  規範 | 問題解決や持続可能な発展を実現していくうえで、行動や政策の選択の基準となる規範を理解し、それに基づいた判断や調整を行う能力。
  •  戦略/方略 | 問題の解決や持続可能な発展に向けた取組みを、包括的かつ現場の状況に応じて、効果的に設計・実行する能力。
  •  協働・共創 | 問題の解決や持続可能な発展に向けた取組みに対して人びとの学習や参加、協働や価値共創などを促す能力。
  •  批判的(吟味)思考 | 他者から示された原因、予測、規範、戦略を、信憑性を確認しながら吟味し、新しい視点などを加えて改善を促す能力。
  •  自己認識(内省) | 問題に関して、自分の知識、姿勢、能力、行動、考え方の特徴や偏りを俯瞰的に捉えて見直し、自分を継続的に問い直し変えていくことができる能力。

■(いまさらかも? でも)SDGsのここは知っておきましょう

  • Q: SDGsって誰が作ったの?

A: 2015年9月に、150カ国を超える世界のリーダーたちが参加して開かれた「国連持続可能な開発サミット」で決められました。

…というのが最初にくる答えですが、では「世界のリーダーたちって誰?」となりませんか?

SDGsに関しては、国連理事国任命の代表者たちだけではなく、社会を構成するすべてのセクターからの参加者が欠かせないということで、MGoS(Major Groups and other Stakeholders)と呼ばれる以下のステークホルダーグループ9つとそれ以外が参加しています。つまり、多数の民間人も決議に加わっているということです。

  • 1. Women (女性)
    2. Children and Youth (子供と若者)
    3. Indigenous Peoples (先住民)
    4. Non-Governmental Organizations (NGO/非政府主体)
    5. Local Authorities (地方自治体)
    6. Workers and Trade Unions (労働者・労働組合)
    7. Business and Industry (ビジネス・業界)
    8. Scientific and Technological Community (科学・技術コミュニティ)
    9. Farmers (農民)
    a. Older persons (お年寄り)
    b. Persons with disabilities (障がい者)
    c. Local communities (地域コミュニティ)
    d. Volunteer groups (ボランティア団体)
    e. Foundations (財団)
    f.  Migrants (移民)

 

  • Q: SDGsの現時点までの経過はどうなっているの?

A: 「このままでは半分も達成できない見通し」という発表は聞かれたことがあるのではないでしょうか。より詳しくは、下記の国連広報センターのページで2021年の報告を見ることができます。
(日本限定版はこちら『2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成へ向けて~』)

 

いくつか、うまくいっていないものを列挙します。

2. 飢餓をゼロに | 飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する

世界全体で栄養不足に陥った人の数

  • 2014年 | 6億700万人
  • 2019年 | 6億5,000万人
  • 2020年 | 7億2,000万-8億1,100万人

 

4. 質の高い教育をみんなに | すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する

新型コロナウイルス感染症によって、教育分野でのこの20年間の前進が帳消しに

  • 2020年には、新たに1年生から8年生までの子どもの9%に当たる1億100万人が最低限の読解力の水準を下回った

 

6. 安全な水とトイレを世界中に | すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する

2020年には数十億人が依然として安全な飲料水と衛生を利用できていない

  • 129カ国は、2030年までに持続可能な形で管理された水資源を確保するめどが立っていない →→→ 現在の前進速度を2倍にすることが必要!

 

10. 人や国の不平等をなくそう | 国内および国家間の不平等を是正する

世界人口に占める難民の割合は2010年以来、少なくとも倍増した→→→ 10万人につき311人が難民(2020年)

  • 2020年には、世界中の移住経路で4,186人が死亡または行方不明に

 

12. つくる責任つかう責任 | 持続可能な消費と生産のパターンを確保する

全世界のマテリアル・フットプリント(消費された天然資源量)は2000年から2017年までの間に70%増加

  •  毎分100万本のペットボトル飲料が購入されている
  •  毎年5兆枚の使い捨てプラスチック製レジ袋が捨てられている
  • 電気・電子機器廃棄物は引き続き大幅に増加ししかも責任ある処理が行われていない →→→ 1人当たり7.3キログラムの電気・電子機器廃棄物が発生。しかしリサイクルされたのはわずか1.7キログラム(2019年)

 

13. 気候変動に具体的な対策を | 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る

  • 2020年の地球の平均気温は、産業革命前の気温を1.2℃上回る →→→ パリ協定が求める1.5℃未満に抑まるめどはまったく立っていない

 

16. 平和と公正をすべての人に | 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する

  • 人身取引の被害者の3人に1人が子ども(2018年)
  • 児童労働は1億6,000万人に増加(2020年) →→→ この20年間で初めて増加

国連広報センター資料より

 

  • Q: SDGsをしっかり推進できている企業って日本にもあるの?

A: 国内サステナビリティ企業評価で有名な2つを挙げておきます。

個人的に調査を見ていつも気になるのが、「SDGs貢献イメージ」と「SDGs企業評価」の順位のギャップです。

JSBIの2021速報を見ると、SDGs貢献イメージ1位のスターバックスジャパンさんは評価得点では19位、貢献イメージ5位のアイリスオーヤマさんは評価得点では84位です。

このギャップの大きさは、なにかトラブルが起きた際にはバッシングされる可能性も高いのではないか?…という気がします(勝手に期待して勝手に裏切られた気分になることってありますよね)。

なお、逆パターンで目につくのは、貢献イメージ20位で評価得点は3位のクボタさん、貢献イメージ94位で評価得点は5位の東京ガスさんなどがあります。もう少し「やってます!」と伝える活動に力を入れてもいいのかも?

 

IBMのESGレポート、けっこういいんじゃないかと思っています

 

手前味噌になりますが、先月発表された「IBM ESGレポート2021」の日本語版と環境・社会・ガバナンス(ESG)業務のための新しいフレームワークIBM Impact」、個人的には好きだし、いい内容ではないかと思っています。

何がよいのかというと、ESG分野において自分たちが何を大事にしているのかが明確にされていて、その中できちんと目標をセットしているところ。

具体的には、ESGの「S: 社会(Social)」の中核を「公平性(Equitable)」に「G: ガバナンス(Governance)」の中核を「倫理的(Ethical)」として、環境と合わせて「3つのE: Environment、Equitable、Ethical」として測ろうという点です。

公平性と倫理的を大事にしようという意思がはっきり見えるのはとても良いポイントだと思います。そして、いくつかの目標数値の立て方に、IBMという企業の課題へのアプローチ方法がとてもよく表れている気がします。

以下、いくつか抜き出してみます。

 

環境への影響

  •  2025年までに、環境へのメリットをもたらすお客様との取り組みや研究プロジェクトを100件開始する
  •  2030年までに、温室効果ガスの排出量をネット・ゼロにする

公平性への影響

  •  2030年までに、あらゆる世代の3,000万人に将来の仕事に必要な新しいスキル習得を支援する
  •  2025年までに、実習型プログラムとニューカラー(New Clollar)人材向けプログラムに2億5千万ドルを投資する

倫理的な影響

  •  2022年末までに、テクノロジー倫理のトレーニングを1,000社のエコシステム・パートナーに提供する
  •  経営幹部向けにダイバーシティー指標に関連した給与調整を継続する

 

なお、ウクライナへの支援については、レポート内に以下が記載されています。

私たちの取り組みには、今日のウクライナの人々に寄り添うことも含まれます。IBMは、ロシアのウクライナに対する戦争を強く非難します。私たちはロシアでの事業を中断し、困難な状況に直面している可能性のあるウクライナIBM社員を保護するための措置をとっています。ウクライナIBM社員が近隣諸国に移転する費用を負担し、またその心身の健康にも配慮しています。

寄付金と寄付先

  • 赤十字国際委員会に185万米ドルを超える寄付金(IBM社員の寄付金が92万5000ドル、会社からの同額の寄付金が92万5000ドル)
  • ・ 会社からウクライナの国境沿いおよび同国内で甚大な影響を受けた地域に不可欠な支援を提供している現地の2つの団体「People in Need」および「Polish Humanitarian Action」に、それぞれ25万ドル

 

なお、IBMサステナビリティー関連の取り組みに興味がある人は、下記ページをチェックしてください。

ここではサステナビリティーの最重要要件を「共創」におき、「共創」を実現させそのインパクトを最大化する「テクノロジー」「人」「(地域)社会」にフォーカスをあてた記事を毎週数本公開しています(宣伝)。

 

Dos & Don'ts

個人も組織も「SDGsウォッシュ」と呼ばれて「キャンセル」されてしまわないために

 

サステナビリティSDGsを考える際、多くの企業が「環境」に偏り過ぎる傾向があります。人権や地域社会のことを忘れないようにしましょう。多くのステークホルダーは、人権や地域コミュニティーの視点からも誇張や根拠のない表現、差別的な表現に目を光らせています。

以下、IDEAD FOR GOODのキーワード解説ページです:

 

最後に、DosとDon'tsを載せておきます。

Don'tsは電通サステナビリティ・コミュニケーションガイド」に掲載されているものです。以前は「SDGsコミュニケーションガイド」という名前でしたが、改称されアップデートされています。

マーケティングや広報だけではなく、ビジネス全般のコミュニケーションに活用できます。

 

Don'ts(電通版)
1. 根拠がない、情報源が不確かな表現を避ける
2. 事実よりも誇張した表現を避ける
3. 言葉の意味が規定しにくいあいまいな表現を避ける
4. 事実と関係性の低いビジュアルを用いない
5. 製品、サービスの全体像との整合性がある
6. 条件付きの場合は、明確に示す
7. 耐久性や廃棄についての情報、ラベルを正しくつける
8. 正しい選択をするために必要な情報を隠さない
9. 載せきれない情報にも簡単にアクセスできるように配慮(QRコード、WEBサイトなど)する

 

Dos(おれ版)
1. 電通サステナビリティ・コミュニケーションガイド」を見ておきましょう!
2. 知っているふりをしない
3. 自分とは違う意見を持っていそうな人に尋ねる
4. 発信する前に英語でググる 
5. SDGsの17(169)の中で興味があるものを見つける | 外務省: SDGグローバル指標(SDG Indicators)

6. SDGsの17(169)の何かにパーソナル・コミットする
7. コミット内容を周囲に伝える
8. 人間らしさを忘れない
9. 健康と幸せを最優先する

 

すっかり長くなったので、Dosの解説はまた今度!