融和の外へ共に迷いこむ
皆さんは「会話と対話」のどちらがより価値があるものだと、あるいはより優れていると思いますか?
なんとなくですが、私の周りでは「対話の方が会話より深いものであり、より価値の高いものである」って感じで捉えている人がとりわけ多そうな気がします。
私自身そうでしたから。でもちょっと、考えが変わりました。
先週今週と、コペンハーゲンからやってきたBespoke(ビスポーク)社の「フューチャーズ・デザイン」ワークショップ(欲しい未来へとつながる兆しを探索し、そこへ辿り着くためのシナリオやアクションのデザイン・プラクティス)の通訳をやってきました。
「おおっ!」とそれまでの認識を揺さぶられる体験があったのですが、その1つが、とあるワークの中でファシリテーターのニックが言った「ダイアローグ(対話)ではなくカンバセーション(会話)をしてくださいね(”Do more conversation rather than dialogue.”)」という言葉からでした。
「え? 言い間違えだよね? カンバセーションじゃなくてダイアローグしてくださいの間違いでしょ」と思ってニックに確認してみたところ、そうじゃありませんでした。
ニックがカンバセーションを求めた理由は、下記の語源と意味からきているということでした:
- Dialogue(対話) - ギリシャ語由来で、核にあるのは「言葉」や「論理」を表すlogos。 「意味を共有する」や「言葉を通じて」という意味を持っている。
- Conversation(会話) - ラテン語由来で、核にあるのは「向きを変える」を表すvertere。 「共に迷う」や「一緒に向き合う」という意味を持っている。
ここからは私の独自解釈です。言語研究家の方などからすると「はあ?」というところもあるかもしれませんが、書きますね。
- ダイアローグもカンバセーションも、お互いの意思や考え方を理解し合うための行為という点では同じ。
- ただダイアローグは、一つの接地点を最大合意点とすることを目的として、言葉を交わし合いお互いの意思や考えを融合させているイメージ。
- 一方、カンバセーションは、当初は見えていなかった新たな場所を見つけ出すことを目的として、融合させたり寄せたりするのではなく一緒に迷い込んで行くイメージ。
つまり、すでに決まっている範囲の中で見つけ出すのがダイアローグで、決まっている範囲の外に探しに向かうのがカンバセーションというニュアンスがそこには込められている気がしたんです。
これ、どちらが良いとか悪いとかではなくて、必要となる場面がまったく異なるって話ですよね。
深く知り合うことを目的とした、ディープなコミュニケーションのためのツールがダイアローグ。
新しい何かを生み出すことを目的とした、ディープなコラボレーションのためのツールがカンバセーション。
ここまで単純化してしまうと、過剰整理でむしろ分かりづらくしちゃうかも? でもこう考えると、欲しい未来へと進む道をデザインするフューチャーズ・デザインのワークショップで重要視されるのは、ダイアローグではなくカンバセーションなのかなって気がします。
他にも、「フューチャーデザイナー」としてのマインドセットや問いの立て方、ファシリテーターとしてのワークの設計や介入の仕方など、新たな学びや仮説を多数手にすることができました。この辺りは、いろいろな機会を見つけてシェアしていきたいと思います。
さらに、今回のワークショップ通訳では、これまでまったく知らずにいた概念や言葉もいくつか知ることができました。
中でも、今後に向けて理解を深めておこうと思っているものを2つ紹介します。
- Dromologie - ドロモロジー。速度論。フランスの哲学家ポール・ヴィリリオが、ギリシャ語のドロモス(前進・競争)にロゴス(言葉・論理)を合わせて作った合成語。
- Polymath - ポリマス。博学者。幅広い分野の知識を持ち、複数分野でその知識を統合する力を持つ人。フューチャーデザインの文脈で言えば古くはレオナルド・ダ・ヴィンチ、最近ではジョブズやイーロン・マスクなど。
皆さんはご存知でしたか?
最後に、ワークショップ初日のチェックインでみんなが描いた似顔絵をシェアします。
この似顔絵、相手の顔から視線を外さず、一切手元を見ないで描いたものなんですよ。すごくない?
Happy Collaboration!